環境学研究科

環境学研究科の教育

名古屋大学大学院環境学研究科は、21 世紀の幕開けである 2001 年に創設されました。地球環境科学専攻、都市環境学専攻、社会環境学専攻という 3 専攻構成で、理学系、工学系、文系の文理連携の研究科です。

環境学研究科では,創造力・応用力・統合力を持った人材の育成を目指しています。そのため,既存の学問分野の授業科目やセミナーによって自らが持つ既存分野での知識を深化させながら,理,工,文の連携を推進する観点から研究科共通で専攻横断型科目である「体系理解科目」(博士前期課程)および「研究科共通科目」(博士後期課程)の習得によって創造力・応用力・統合力の養成を図っていきます。それは,自らの専門知識に閉じることなく,文理にまたがる幅広い学問分野を自由に咀嚼し,柔軟に社会や組織を導く能力を身につけるための教育プログラムです。言い換えれば、ひとつの専門を持ちつつ広く全体を見渡せるジェネラリストを目指す、あるいはひとつの専門を深く極めるスペシャリストを目指しつつ他分野の素養も持っている、という人材を育てようという考え方です。どちらにしても、複数の眼をもつ人材を育てようとしています。創設から 18 年が経ち、この体系理解科目が効果を上げてきたように感じています。理工文の専門を問わず学べるようにプログラムされていますので、他研究科の学生の方々でも十分に単位取得可能です。

また、体系理解科目は、2013 年度から始まった、環境学・国際開発・生命農学・経済学・工学研究科による 5 研究科連携 ESD(Education for Sustainable Development)プログラムの一部ともなっています。この ESD プログラムには 2018 年から人文学研究科も加わり、より一層充実した内容になっています。

環境学研究科では、創設以来,環境学の基礎となる個々の既存学問の深化とともに,持続性学と安全・安心学を 2 本柱とする新たな研究・教育の創造に取り組んでいます。その一環として「臨床環境学」という新しい学問を構築し,現在,持続的共発展教育研究センターを中心として実践しています。また,地震火山研究センターの研究活動やスマトラ地震・津波以来の様々な災害調査を通じて,文理融合の防災研究・教育を推進してきました。これらの活動は国内外を問わず地域社会と連携し,研究成果を地域に還元してきています。

21 世紀の人類的課題の一つが,環境問題であることは誰もが認めることです。この人類的課題に対応するため,2015 年,国連は持続可能な開発目標(SDGs)を定めました。名古屋大学においても,環境学研究科,生命農学研究科,国際開発研究科,宇宙地球環境研究所が協力し,2018 年 4 月にフューチャー・アース研究センターを設立し,SDGs の推進を図るための学問構築を目指して連携研究を進めています。同時に、京都の総合地球環境学研究所や筑波の国立環境研究所とも学術連携協定を結び、それぞれの研究所に所属する研究者が名古屋大学環境学研究科の教育に参加できる制度を設け、実践しています。 このように環境学研究科は独自のカリキュラムによって多様な人材の育成をめざしています。そして,学問の発展には,学生も教員も「十人十色」の原則で他者との違いを認めながら,「三人寄れば文殊の知恵」の原則で絶えず意見交換しながらいいものをつくっていくという精神が必要です。私たち教員も皆さんとともに学び,また,夢を語り合いたいと思います。

藤前干潟

体系理解科目「環境学フィールドセミナー」での藤前干潟の訪問。干潟に入り、生物相などを実際に見てみる。柔らかい泥が、足の裏に心地良い。

風車

体系理解科目「環境学フィールドセミナー」での風力発電施設の訪問。豊田通商の方から風力発電の現状と今後の見通しなどを伺う。

部局長インタビュー

環境学研究科長 山岡耕春 教授

環境学研究科長の山岡耕春教授に 5 つの質問に答えて頂きました。

  1. 環境学研究科の強み(醍醐味)を教えてください。

    理学、工学、人文・社会科学の専攻が集まり、環境をテーマに教育・研究を行っていることです。理学からは、気象・海洋・地震・火山・地質学などを扱う地球惑星科学が、工学からは、都市や建物を扱う建築学および土木工学が、人文・社会科学からは、社会学・地理学・法学・経済学の分野が参加しています。それぞれの分野で、一流の先生を集めて研究科を構成しています。カリキュラムの特徴は、それぞれの専攻の専門科目と並び、体系理解科目といって、環境学研究科の理学・工学・人文社会科学分野の研究を広く学ぶことのできる講義が用意されていることです。

    博士後期課程では、東海地方のある地域をターゲットとして、その地域の課題を発見し解決の道筋を、複数の専攻からの学生が集まって議論をする総合環境学特別コースあります。さらに、来年度からは、社会人入学生向けに地球規模課題としてエネルギーや資源などの10の課題について、専攻を越えた課題解決のための取り組みが始まります。

    また、留学生が多いのも特徴です。中国をはじめとして各国からの留学生を受け入れています。研究科の学生の約1/3が留学生であり、研究室に居ながらにして国際感覚を養うことができます。

  2. 環境学研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育って欲しいですか。

    世界で活躍する、志の高い人材に育って欲しいと思います。 大学院前期課程に進み、良い会社に就職したいというモチベーションの学生が多いのが事実ですが、さらにその先を見据えてほしいと考えています。企業も含め、社会の中で、それぞれの分野を引っ張っていくリーダーを目指して欲しいと思います。

    そのためには、各専攻においてきちんとした学問の基礎固めをすると同時に、他の分野の人たちと協力して仕事ができるだけの幅広い視野を持たなければいけません。特に、博士後期課程で学ぶことの大事さを訴えたいと思います。博士前期課程は、指導教員の研究の枠の中で学んで一定の成果を修士論文としてまとめて卒業します。しかし、後期課程では、ある時は指導教員と対等の議論をし、自由で深い思索を経て、博士論文を書きます。このような3年間の経験は、社会に出てから OJT のなかで行うことは難しく、博士を修了した人たちだけが持つ財産です。

  3. 環境学研究科のビジョンを教えてください。

    地域規模から、地球規模まで、環境に係わる課題解決に主眼を置いた教育・研究を推進することです。地球科学、建築学、土木工学、社会学、地理学などの専門を深めるだけで無く、それらを統合して地球環境に係わる課題を解決する知恵を絞ることです。環境学研究科が扱う、環境や防災にかかわる課題は単に技術開発だけで解決できるものではありません。多くの課題にはトレードオフと呼ばれる、「こちらを立てればあちらが立たず」という問題があります。再生可能エネルギーの太陽光発電も、景観を破壊したり、土壌流出を招いたり、必ずしも地域に受け入れられているわけではありません。このような、トレードオフは、自然災害、資源循環などさまざまな課題につきまといます。それらを解決するためには、分野を超えた英知を結集する必要があります。理学の目指す真理の探究や、工学による技術の開発だけでは解決ができないのです。環境学研究科で、広い視野を持った学生を育てるのはそのためです。

  4. 山岡先生ご自身が学生だった時、印象的な授業はありましたか。

    私は、名古屋大学理学部地球科学の出身です。大学時代に、時代を先取りして、広い視野を身につけさせてくれた授業がありました。たとえば、大気物理学という授業があり、二酸化炭素の排出により地球が温暖化していく仕組みを明快に説明してくれました。1980 年ころのことです。二酸化炭素による地球温暖化が世の中で話題になってきたのは 21 世紀になってからですが、学問的にはそのような問題を20年以上も前から明らかにしていたのです。

    逆の意味の授業もありました。いまやプレートテクトニクスは当たり前で、地球で起きている地質現象はプレートの動きで説明できます。私が学生の頃、1970 年代後半には、すでにプレートテクニクスができあがっていたのですが、古い概念の「地向斜造山」を講義している化石のような先生がいたのも印象に残っています。

  5. 環境学研究科への入学希望者に向けてメッセージをお願いします。

    環境学研究科は、真理の探究をめざす理学を志す学生さんにも、ものづくりや設計が好きで工学を目指す学生さんにも、人間社会のことに関心がある人文社会科学をめざす学生さんにも門戸を開いています。地球規模課題の解決のために、ぜひとも環境学研究科への進学を検討して下さい。各専門の基礎学力と横断的な広い視野は、様々な分野のプロと協力して仕事をする上で不可欠な素養です。また、大学院時代に分野を超えた繋がりを経験することは、貴重な経験です。環境学研究科で、そのような経験を積み、他の大学院では身に付かない素養を身につけて下さい。

(令和 3 年 5 月 6 日)


関連リンク

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授業一覧

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