名大の研究指導

#3 親身なコミュニケーションが生んだ「育志賞」

 日本学術振興会では毎年、特に優秀な大学院博士後期課程の学生を対象に「日本学術振興会育志賞」が授与されます。今回は、2017年に育志賞を受賞した伊藤さんとその指導にあたった五島先生にインタビューを行いました。優れた研究成果を生む、五島研究室の指導術に迫りました。

五島先生インタビュー

Q. 研究室の運営状況を教えて下さい

年間スケジュールはどうなっていますか?
4月:第一回プログレスリポート(1-2日で全員分やる)
6月:日本細胞生物学会(多くのメンバーが参加・研究発表)
7月:米国ウッズホール海洋生物学研究所で研究室を借りて共同研究(教授&学生1-2名: 伊藤も D1 のときに連れて行った)
8月:第二回プログレスリポート
12月:米国細胞生物学会(一部のメンバーが参加・研究発表:伊藤は D2 で発表)
12月:第三回プログレスリポート、卒論・修論構想発表会
12月:忘年会(いつも決まったちゃんこ料理屋)
毎週1回:ジャーナルクラブ(文献紹介)

ゼミの参加人数はどれくらいですか?
2017年4月の時点で、B4 2 人、M 1 人、D 2 人、ポスドク ゼロ、技術補助員 2 人、スタッフ 1 人(教授のみ)

学生指導はいつやっていますか?
出張でもないかぎり日常的に各人に声をかけています。少人数ですし、私自身も学生と同じ部屋で実験をしていますので。

Q. なぜ伊藤さんは受賞したとお考えですか?

ほぼ独力で実験をやり遂げた質の高い論文を発表できたからだと思います。

Q. 学生指導で心がけていることはございますか?

学生のどんな能力を延ばそうと考えていますか?
各人違った長所を持っています。忍耐力の凄い人だとか、発想が豊かな人とか。それを生かしてもらいたいと思っています。

研究テーマの設定はどのように決めていますか?
長所を生かせるテーマを設定しています。多くの場合、博士号取得に興味を持っている学生が入室してきたときは、私が何年もかけて練ったこれぞというテーマを提案し、あとは基本的に自己責任で進めてもらっています。やっている途中で思いがけぬデータが出て研究の方向が変わることも多いです。途中でこちらが全く思いつかない新しいテーマを提案してきた学生もいました。

Q. 先生にとって良い研究指導とはどんなものか教えて下さい。

おそらく、大きなテーマを提案して、あとは何もせず放っておいて良い研究成果を出すのを待つのが理想的なのだと思います。ただ私にはそのスタイルを貫く忍耐力ですとか強い心がありません。ですからついつい手取り足取り指導してしまいます。ただこれも悪くはないとは思っています。私と二人三脚で研究を進め論文を執筆することで実験の作法からデータの出し方、研究の進め方、成果の公表の仕方などを身につけてもらいたいと願っています。学生が5-6年間の研究生活をぶつける場としては博士論文公聴会があります(D3 の2月)。発表や質疑応答の際、その学生がどの程度のレヴェルに到達したのかが現れます。これまで私の研究室から巣立った5人の学生については、公聴会で私の期待していた以上のパフォーマンスを見ることができて、涙が出そうになりました。やってきたことに間違いはなかったと。