健康・スポーツ科学講義
教育学部/教育発達科学研究科
蛭田 秀一 教授
2022年度春学期
教育学部の教育目標は、「教育発達科学の基礎力」、「基礎的応用力」、「知力と熱意」を養成することです。
現代ほど、人間の発達・成長をめぐって、困難な問題が出現した時代はありません。本学部は人間の発達・学習・社会化など「人間形成」に関わるさまざまな問題を、いろいろな観点から、理論的・実践的に学ぶことを目的とする学部です。
本学部における研究領域は、小学校から大学にいたる教育の諸問題をはじめ、家庭における子どもの養育・しつけの問題から青少年のカウンセリング、職場における人間関係、国際化と教育・文化の諸問題、生涯にわたる人間形成の問題など、人間社会の全般にわたっています。こうした広範な課題を、個人的視野から国際的視野までいろいろな角度から取り組み、それらの研究成果を総合しながら人間形成に役立てようとする実践研究が行われています。
教育学部は、入学定員 65 名の比較的小規模な学部です。この学生数に対して、専任の教員は 40 名を擁し、更に外部からの兼任教員も加わって、5 つのコースを準備し、斬新なカリキュラムを実施しています。
ますます国際化し、情報化する現代社会において、創造性を生かし、積極的に取り組み、社会をリードできる人材を養成するために、少人数によるフェイス・トゥ・フェイス教育がそれぞれのコースにおいて行われています。教員と学生のコミュニケーションがうまくいっているのも本学部の特徴です。
教育学部・教育発達科学研究科長 松下晴彦 教授
教育学部・教育発達科学研究科長の松下晴彦教授に 5 つの質問に答えて頂きました。
教育学部・教育発達科学研究科の強み(醍醐味)を教えてください。
教育学部と聞くと、みなさんはどのようなイメージを浮かべるでしょうか。多くの人は、学校の先生になるための学部かなと思うかもしれません。
確かに、この教育学部でも中学や高校の教員免許を取得することができますが、これは主要な目的、ミッションではありません。
私たちの学部では、子どもの誕生、子育てや学校教育の問題、企業や社会における人材育成や生涯学習の問題など、より根源的で包括的な人間形成と発達についての問題を、学問としての教育学と心理学の視点から学んでいきます。
学部と大学院はともに、教育学専攻と心理学専攻から構成されていますが、教育学と心理学の重要な学問領域のほぼ全てをカバーする日本でも数少ない教育研究機関だといえます。しかも、学生定員に対する教員数が多いことから、少人数による質の高い授業を展開することができ、個々の学生の関心やニーズに応えるきめ細やかな研究指導を実現しています。このために、教育学および教育発達科学研究科の学生満足度は常にトップレベルにあります。
教育学部・教育発達科学研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育って欲しいですか。
高校までは、何をどこまで、いつまでに学ぶかが、明確な共通の目標として掲げられています。みなさんにとって学ぶ自由というと、所定のメニューから選択することの自由だと思います。
しかし、大学に入学してからの学びの自由は、勇気と責任が伴う学びの自由です。そして、このことは、おそらく生涯にわたり継続することであり、学びの目標、探究のための目標を自らの責任で掲げ、絶えず省察(反省)を繰り返しながら、歩んでいかなくてはなりません。
教育学部では、まずは、教育や人間発達について探究するための分析の方法や視点、先端的な知識や技法を学んでいきます。同時に、誰も思いつかないようなオリジナルなアイデアをいかに育むか、そしてアイデア(観念が)いかに人々を動かし、人々を通して社会の仕組みに組みかえて、社会の発展に寄与していくかといった、想像力や構想力を重視し、またこれらを身につけていきます。
本学部で学ぶ学生にみなさんには、社会的な通念や自明性(当たり前に思われていること)を批判的に省察し、独自の視点と自分の力で考える心の習慣を身に付け、アイデアを行動へと実現する勇気を育んでいくことを期待しています。
教育学部・教育発達科学研究科のビジョンを教えてください。
私たちの教育学部・教育発達科学研究科は、国際的な水準にある教育研究組織です。海外からの留学生の比率も高く、教員や院生も国際学会で発表し、その研究成果は海外の研究雑誌に多数掲載されています。一方、本研究科には外国人専任教員、また毎年3~ 4 名の海外からの客員教員を擁しているのですが、授業のほとんどは日本語で実施されており、学生も海外留学に対してはやや消極的です。今後は、海外の交流協定校や各教員がもっているネットワークを活用して、国際レベルでの教育研究の充実をはかっていきたいと考えます。
また本研究科では、2018 年に授業研究国際センターを設置し、各国での授業研究 Lesson Study の展開と国際比較研究を手掛けています。さらに心の発達支援研究実践センターとの協働で、モンゴル発達障害児のための「田中ビネー知能検査モンゴル版」を開発しました。引き続きこうした世界に貢献できる国際研究拠点形成に努めていきます。
松下先生ご自身が学生だった時、印象的な授業はありましたか。
アメリカの中西部にある大学に留学していた時に、授業の一環で近隣にあるオルタナティブ・スクールを訪問し授業参加や生徒へのインタビューをするというものがありました。この学校の生徒の多くは、通常の学校ではドロップアウトを経験したり、家庭の問題や非行、ドラッグ・アディクトからの矯正などそれぞれの問題を抱えている生徒たちでした。
インタビューのあとで参加した授業は「社会心理学」で、生徒と一緒に輪になって座ります。その際、本人にはわからないように、教師が参加者の額(ひたい)に「私を褒めて」「けなして」「無視して」「頼りにして」といったメッセージの書かれたポストイットを貼っていきます。参加者は、このメッセージ内容を実行しながら、与えられた課題について議論していきます。議論のさなか、「無視して」をおでこに貼られている生徒は、何を発言してもとことん無視されてしまうので、最後は泣き出しそうになってしまいました。授業の後半は、自分のポストイットのメッセージを確認しながら、そのようなメッセージ(レッテル)がもつ効力と暴力について議論しました。
30 年以上も前の授業ですが、シンプルなセッティングで問題の多い生徒たちを相手に深く考えさせ、日常生活へのフィードバックも期待できる巧みな授業だったなと感銘を受けた記憶があります。
教育学部・教育発達科学研究科への入学希望者に向けてメッセージをお願いします。
ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくる赤の女王は、アリスに向かって「ここでは、同じ場所にいるためには思いっきり走らなければならないよ」と逆説的な、不思議なアドバイスをします。科学技術社会のめまぐるしい展開のなかで生きる私たちの生活、人間形成の有りようは、この赤の女王の言葉どおりかもしれません。誰もが自分の居場所にとどまるために、世の中で何が望まれているのかを急速にキャッチアップし続けなければすぐに遅れをとってしまいます。
しかもみなさんは自分のことは自分が一番わかっていると思いたいのに、みなさんについての情報は、可視化されたり、数値化されたりして、ほとんど他の人の視線や見方を経由して知らされるものです。しかし、人間形成には、そうした可視化や数値化には還元できない大切な次元があります。みなさんが、この世に存在している不思議さ、どこか別の時代や、文化や、場所ではなく、いまここにいるという不思議さを感じることのできる感性を大切にしてください。そして、生きていくことの大切さ、人間と人間発達の不思議さに少しでも興味をもって、さらに深く学んで、その知見を社会に役立ててみたいと思ったら、是非、教育学部の門をくぐり、私たちとともに教育学や心理学について学んでください。
(令和 3 年 5 月 27 日)
私の研究は「発達社会学」と「学校臨床社会学」の二つの領域にまたがるが、その歩みについては『人生時間割の社会学』(世界思想社、2008年12月刊)と「学校臨床社会学の構想」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要』(2009年3月刊)にそれぞれ詳しく記したので、ここでは1986年に本学に赴任してから23年間の勤務のなかでもっとも印象に残る教育上の経験について記したい。それは我が研究科が2006年 ....
続きを読む →
心理・教育の分野で必要となる統計的手法の基礎を習得するために,統計学および心理・教育測定学の基本的事項を学習する. ....
続きを読む →
私は2015年3月末をもって名古屋大学を定年退職します。名古屋大学在職中に関係の皆様から寄せられたご厚情に対し、心よりお礼申し上げます。私は名古屋大学において、2つの部局でお世話になりました。医学部 (医学系研究科) と教育学部 (教育発達科学研究科) です。私は医学部を卒業後、精神医学教室で、一般精神医学と児童精神医学のトレーニングを受けました。その間10年近く、いくつかの公的精神病院に勤務 ....
続きを読む →
この授業では、〈人間〉、〈発達〉、〈教育〉など、人間発達科学における基本的な概念についてそれをめぐる議論と背景に注目しながら概説する。 ....
続きを読む →
平成7(1995)年に金沢大学から転任し、以来21年の在職となりました。その間、学部長・研究科長も経験しましたが、法人化後の様々な制度改正や新規制度の立ち上げなどが続き、なかなか葛藤の多い時期が続いたように思います。しかし、文科省の現代 GP「専門教育型キャリア教育体系の構築」が採択され、「キャリア支援・教育開発センター」の責任者として平成18~20年の間、名古屋大学に一定の寄与ができたかと思 ....
続きを読む →
私の所属していた教育方法学研究室の共同研究は、授業分析と呼ばれる研究です。アメリカやドイツなど諸外国の教授理論を枠組にした研究が主流である中で、授業の詳細な記録を自らも変化する解釈者として分析・解釈するという動的で相対的な立場で授業分析を進めてきました。この研究の中核は、一方で認知理論や教授学の理論における概念と概念の関係を抽出し、他方で授業実践の分析と解釈から授業諸要因の関連構造を導き、そし ....
続きを読む →
....
続きを読む →
受講者は、教員養成教育、現職教育、教師教育者に関する理論的・実践的な知識と、基本的・専門的な技能を習得する。授業方法の特徴としては、具体的な実践の事例 (エビデンス) を基に個人の考察、ペア学習・グループ学習を行い、全体討論や個人の発表の機会を通してさまざまな考え・アイデアを交換し、教師発達について理解を深める。 ....
続きを読む →
本講義では、幅広い視野に立ってカリキュラム学の基礎ならびに日本の教育課程の動向に着目し、その底流を流れる学力観の意味と立ち位置を考える。前半では、A) 近年の国内の「教育改革」の系譜、B) 国際学力比較調査やいわゆる「21世紀型能力」 (次世代型教育) など、世界における「学力」をめぐる動向、C) 実際の教育現場での実現可能性 (実践的視点) などから多面的に検討を行います。後半では、第2 ....
続きを読む →
* 対人コミュニケーションの諸研究テーマについて概観する * 対人関係の発展過程における、コミュニケーションの役割とその重要性を取り上げる * 対人影響の手段として、コミュニケーションの方略や態度変容の理論・モデルなどを紹介する ....
続きを読む →
現在,子どもたちの心理的課題に注目が集まっている。学校という場において,これらの課題に向き合っていくためには,どうすればよいのか。本授業では,学校心理学の観点からこの問いに対する考えを深めていく。 ....
続きを読む →
われわれは日頃相手の表情を見たり、行動を解釈することによって、その人の心理状態を推測しており、ある意味では、人はみな日々の生活のなかで素朴な観察を行っているといえる。しかし心理学の研究方法である観察法は、単に目で見て判断するということ以上の、科学的研究としての方法論に基づいている。本授業では、観察法という研究方法の基本と、観察によるデータの収集および分析の方法について、受講者が実際に経験しなが ....
続きを読む →
学部授業でのアドバンスドコースとして、相談場面におけるセラピストの各種技法を身につけることと、事例の多面的な理解を目指している。 ....
続きを読む →
乳幼児〜児童期のアセスメントと成人期のアセスメントについて、心理検査法の習得と方法論についての学習を目的とする。 ....
続きを読む →
名古屋大学教育方法研究室では、教育の科学化を標榜し、50年にわたり授業分析を研究の柱としてきた。本講義では、授業において学習者がどのようなことを学び,何を実現しつつあるのかをとらえるために、授業分析の方法を学ぶ。 ....
続きを読む →
今日の教育上の課題と関わらせながら、教育方法の基礎となる理論や、優れた授業実践事例を学ぶともに、教師に必要とされる授業実践力の基礎を身につける。2回は、演習形式とし、模擬授業を計画・実施する。 ....
続きを読む →
「教育社会学」のおもしろさに迫るために、授業では次の3つのことにこだわります。第一に、「学問」(discipline)にこだわります。社会学あるいは教育社会学の理論や考え方とはどのようなものか、さまざまな例を用いながら、またときに教育学や心理学との比較をおこないながら、描き出していきます。第二が、「調査」(research)にこだわります。社会を知るには調査が不可欠です。ただしこの授業では ....
続きを読む →
この授業は、胎児期から成人・老年期にいたる人間の社会的・情動的発達の入門コースである。様々な古典的研究や最近の研究を紹介するとともに、広角的に発達を捉える基本的枠組み・視点を提供する。 ....
続きを読む →
大学を卒業後、多くの人は何らかの職業に就き、組織に参入することになる。このため、産業・組織におけるさまざまな心理学的知見について、学んでおくことは有用である。こういった視点を持つことで、実際に働き始めた後の組織現象の理解につながると考えられるからである。本講義では産業・組織について心理学的知見から検討し、理解を深めることを目的とする。 ....
続きを読む →
あこがれてやっと入った名古屋大学。学ぶことが楽しくて大学院まで学び続けた。助手に採用され、やがて、慕いつづけた思師の後をおって教育史講座の教員として就任。名古屋大学にはのべ20余年も勤められたのだからありがたい。神戸商科大学(現在の兵庫県立大学)での11年間を含んで、34年間の教員生活ということになる。 名古屋大学に職を得たことは、誠に幸いであった。父母に孝養をつくしながら、学問を中心にしたラ ....
続きを読む →
若い頃、母校で教鞭がとれることになろうとは全く予想できなかったが、大阪教育大学で12年間過ごした後、昭和62年から25年間も名古屋大学で過ごさせていただいた。その間、私の周りにはいい風が吹いていたようだ。失敗や葛藤はいくつもあったけれど、総じて多くの優秀で思慮ある人々に囲まれ、大病をすることもなく、自由に研究や教育に打ち込み夢を追うことができた。研究や教育以外の大学内外での重要な仕事にも参加さ ....
続きを読む →
今年度は、アングロサクソン圏の教育思想と歴史をたどりながら、社会・文化・経済と教育の発展についてともに考えていく。特にアメリカに誕生した哲学、教育思想、教育実践を概説する。 ....
続きを読む →