現代の量子論

講師谷村 省吾 教授
開講部局教養教育院 2021年度 集中講義
対象者他大学向け集中講義(情報学部・情報学研究科、理学部・理学研究科、工学部・工学研究科の3、4年生、院生(博士前期課程))

講義の目的

量子論は相対論とならんで現代物理学の根幹をなしている。相対論が時空の構造や光速に近い速さで動く物体の物理や強い重力場での物理現象を扱うのに対して、量子論は原子や電子などのミクロの世界の物理法則を扱う。半導体・レーザー・原子時計など現代のテクノロジーの原理は量子論にもとづいて考案されたものが多く、量子論は現代文明の基盤を提供しているとも言える。

量子論は完成度の高い物理理論であるが、いまなおそれ自体が研究の対象になっている。量子論を扱う数学が発達してきたことと、かつては思考実験にすぎないと思われていた問題がテクノロジーの発達により現実に検証可能になったことが、量子論自体の研究と理解を進歩させている。

この講義は、現代的な量子論の数学的理論構成と最新の実証実験とを理解してもらうことを目的とする。なお、この講義は2021年9月7日から10日まで愛媛大学理学部に向けてオンライン集中講義として実施された。

授業の工夫

量子力学について一通りの講義を行っている理系の学部は多いが、量子力学の数学的基礎や最新の検証実験について学部で教える機会は少ないように思われる。ニュートン力学の理論が微分積分の概念を使って数学的に基礎付けられるように、量子力学もヒルベルト空間と演算子の概念を整備することによって確かな基礎の上に立つ理論になる。そのような数学的諸概念を厳密に定義しながらも、学習者がイメージを持てるように教える工夫をした。

また、オンライン講義ということで、海外も含めて全国にライブ配信した。質問は音声でもオンラインのチャットでも受け付けて、なるべくその場で答えた。大学に属さない市民の方も視聴参加していた。単位取得が目的でない学外からの熱心な聴講者が多く、学生も刺激を受けたようである。講義は録画して、毎日すぐにネットで公開した。授業中に演習問題を出題し、解答レポートも誰でもネットを介して提出できるようにした。

講義スケジュール

講義内容 講義ビデオ
第1回(1日目lecture1) 量子力学の数学的基礎、力学の構文、古典力学と量子力学の相違点 講義ビデオ
第2回(1日目lecture2) リーマン積分とルベーグ積分、可測空間、測度 講義ビデオ
第3回(1日目lecture3) ルベーグ積分論の続き、確率測度、ラドン・ニコディム微分、ディラック測度、リーマン積分とルベーグ積分の違い 講義ビデオ
第4回(1日目lecture4) 線形位相空間、ベクトル空間、ノルム空間、内積空間、バナッハ空間、ヒルベルト空間、コーシー・シュワルツの不等式、リースの表現定理 講義ビデオ
第5回(2日目lecture1) 位相空間、開集合、閉集合、閉包、開核、稠密、連続写像 講義ビデオ
第6回(2日目lecture2) 稠密な定義域を持つ関数の定義域を拡大した連続関数、線形演算子、ヒルベルト空間の例、関数空間、波動関数の確率解釈、演算子の定義域 講義ビデオ
第7回(2日目lecture3) 有界演算子、演算子のノルム、非有界作用素、運動量演算子、共役(随伴)、自己共役演算子、射影演算子、自己共役演算子のスペクトル分解定理 講義ビデオ
第8回(3日目lecture1) ヒルベルト空間のテンソル積 講義ビデオ
第9回(3日目lecture2) エンタングルメント、特性関数、スペクトル分解、正規演算子、PVM (projection-valued measure)、POVM (probablity-operator-valued measure) 講義ビデオ
第10回(3日目lecture3) 量子のミステリー、隠れた変数、コッヘン・シュペッカーの定理、マーミンの魔法陣 講義ビデオ
第11回(3日目lecture4) ベルの不等式、CHSH(クラウザー・ホーン・シモニー・ホルト)の不等式、マーミンの野球原理、客観的実在の問題 講義ビデオ
第12回(4日目lecture1) ボルンの確率公式、量子消去、間接測定モデル 講義ビデオ
第13回(4日目lecture2) 不確定性関係、ケナード・ロバートソンの不確定性関係、小澤の不等式 講義ビデオ

講義資料

課題


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

投稿日

March 31, 2022