法学部/法学研究科

法学部/法学研究科の教育

名古屋大学法学部は、1948年9月、旧制名古屋大学法経学部の法律・政治両学科として生まれました。翌年5月には、新制名古屋大学法経学部が設立され、その後、1950年4月に法経学部が法学部と経済学部に分離されました。

1953年4月になって、新制の大学院法学研究科が設置され、現在の組織ができあがりました。2004年4月には、法科大学院(法学研究科実務法曹養成専攻)を開設しています。

名古屋大学そのものが、最後の帝国国立大学として設置されたため、他の国立大学の法学部・法学研究科と比べると、学生数も、教員数も、最も少ない部類に入っています。それでも、経済、法曹、行政の分野に優位な人材を多数輩出してきています。

これが可能となったのも、「自由」「闊達」「進取」という気風が維持されてきたからであると思えます。名古屋大学は、「自由」「闊達」な学風を掲げてきており、法学部・法学研究科は、これに「進取」を加えることで、自ら進んで物事に取り組む姿勢を重視しています。

もちろん、このような学風は自然に維持されるものではなく、歴代の学生、教職員の志と努力によって維持されているものです。学生として、あるいは別の立場としてであれ、志を同じくして、できる範囲での努力を惜しまない皆さまの参画を大いに期待したいと思っています。

法学部長・研究科長として、一緒に走ってくださる教職員とともに、「ぼちぼちいこか」という気持ちを忘れず、自分たちらしく教育と研究に励んでいきたいと思います。

部局長インタビュー

法学部/法学研究科長 中東正文 教授

法学部・法学研究科長の中東正文教授に5つの質問に答えていただきました。

1. 法学部・法学研究科の強み(醍醐味)を教えてください。

 法学部は1学年150名の小規模な学部です。教員は約60名おり、教員1人当たりの学生数は、1学年あたり3名程度ですので、少人数教育が可能な環境になっています。

 法学部・法学研究科の特徴は、20年にわたり積極的に国際展開を行ってきたことにあります。アジアの主要大学との間には、学生の派遣と受け入れを行う研修プログラムがありますし、ヨーロッパへの留学支援も行っています。

 このような国際交流は、教員の研究が多様であることによって支えられてきています。私自身、最初に留学したのはアメリカでしたが、米国法の発想が好きになれず、カナダ法をも研究対象とすることにしました。アメリカとカナダは、世界で最長の国境で接しており、社会・経済的な交流も盛んですが、考え方の基本が大きく異なっています。

 このほか、ドイツ、フランス、中国、韓国など、教員の研究対象は様々であって、研究の成果や実際に生活した経験を、日々の教育活動で伝えてきています。もちろん、法学・政治学と一口に言っても、多くの分野がありますので、学生は多様な刺激を得ることができ、自分が共感することができる考え方や発想を求めて、主体的に学ぶことができます。

2. 法学部・法学研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育ってほしいですか。

 名古屋大学の伝統は、「自由」で「闊達」な校風を有していることです。法学部・法学研究科は、これに加えて、「進取」の気風を尊重してきており、歴代の学生や教職員がこの気風を大切に育んできています。

 学生には、主体的に考えて行動することが期待されており、「自由」「闊達」なキャンパスを満喫しています。法学部では、専門科目に必修科目がなくて、自分自身で専門科目を選択する仕組みになっています。「自由」「闊達」に、何を組み合わせるかによって、新しい視点や見識を得ることができ、何ごとにも、「進取」の姿勢で取り組むことが期待されています。

 学部ゼミにも多様なものがありますが、私のゼミでは、小さなチームを構成して活動し、「問題発掘→問題分析→問題解決」という一連の力を身に付けることを目的としています。教員が課題を与えることはありません。もちろん相談には乗りますが、学生たち自身で問題を発掘しようと試み、分析を深めつつ、当初の課題設定が適切かを検討していくことになります。そして、自分なりの問題解決策を提示します。問題解決策には、新しい法律の制定、現在の法律の改正といった提案も含まれます。自由な発想を育てるために、自分たちで取り組むことを重視しています。最終的には、「担当教員がいなくても成立するゼミ」を目標としています。

 このような活動を経験しつつ、卒業後も、社会において自分らしく活動して、社会の課題に取り組んでいくことを期待しています。自分自身が心豊かに生活することを学んで、そのためにも、自分が属する社会を豊かなものにすることができるように、各々の立場から取り組んでいってもらいたいと思います。学生生活は、社会に飛び出すための基盤を作り上げるためのものでもありますから、大いに失敗や試行錯誤をして、社会において自分自身が満足して輝くことができるための素地であったり、姿勢の保ち方であったりを学んでもらいたいと思っています。

3. 法学部・法学研究科のビジョンを教えてください。

 3点に分けて話をさせていただきます。

 第1に、名古屋大学は、わが国の科学研究をリードする有数の研究教育拠点です。法学部・法学研究科もまた、次世代の法学と政治学の分野での研究者養成を行うことを使命としており、多種多様な教育カリキュラム、支援プログラムを通じて取り組んでいきます。 

 第2に、国際的には、名古屋大学法学研究科と密接な関係をもって運営されてきた法政国際教育協力研究センター、日本法教育研究センターと協力し、アジア諸国の法整備支援の研究と人材育成をさらに発展させていきます。また、研究教育に関してわが国有数の国際交流拠点となっている名古屋大学で、日本人学生、留学生がともに学び、内外の様々な課題に取り組む人材育成を行っていきます。   

 第3に、実務法曹養成は、法学の基幹大学としての重要な使命です。学部と大学院との一貫教育、国際感覚と幅広い教養を身に着けるカリキュラムを通じ、様々なニーズにこたえることのできる多彩な人材を社会に送り出していきます。

4. 中東先生ご自身が学生だった時、印象的な授業はありましたか。

 2つあります。

 1つは、当時の教養部で受講した数学の授業です。ひたすら行列の積を求めるというもので、教授が大きな黒板で解いていくのを眺めていました。ときどき計算を間違うようで、とはいえ、教授が間違いに気づいたときに、なぜ気づいたのか、どこまで戻って計算を再開するかを観察していると、とても興味深く感じました。高校生のときにも、数学だけは得意で、社会科は全く不得手でした。高校でも、同じように、何も用意せずに、高校ですので小さな黒板でいきなり問題を解く教員がおり、同様に間違えたときの対応が興味深くて、毎回楽しみでした。

 法学とのつながりを意識することができたのも、有意義でした。法学は論理的な学問であると一般的には考えられており、明快な定式を用いて、数学のようにエレガントに法的紛争を解決することが期待されているかもしれません。それに越したことはなく、とりわけ理由付け(reasoning)は単純で明快な方がよいと思います。

 もっとも、実際の紛争は、人々の思いや紛争に至るまでの経緯など、個別具体性が高くて、規範(ルール)を具体的な案件に適用することが容易ではありません。規範(ルール)は単純にしつつ、具体的な適用は個別的な事情に応じて柔軟に行っていくことが求められると思います。その際、演繹的にのみ考えていくと、とんでもない結論になるかもしれず、これでは、法が社会的な約束であることからしても不都合が生じます。演繹しつつも、途中で間違っていたら、つまりは、このまま解き続けると妙な結論にたどり着くであろうことに気づいて、どこまで思考を戻らせればよいのか、ある意味では帰納的に考えることが必要です。  

 このような形で、法学と数学は、共通している面が少なくないと感じています。

 もう1つは、私の専門である会社法の授業でした。師匠の師匠が本学を定年なさる最後の年の授業を受講して、会社法に対する関心を一気に高めました。

 教授は、ご自身の概説書(教科書)に沿って淡々と説明されていくのですが、時折、「○○という事情があってですね・・・」という形で、教科書には書かれていないコメントを付されていき、これが面白くて仕方がありませんでした。900頁の書物を、30コマで終えなければなりませんから、親切で分かりやすい説明はしてくださいませんでしたが、行間を読むことを通して、かえって知的好奇心が刺激されました。

 この書物は改訂されなくなってしまいましたので、私の授業では、別の1,000頁超の教科書を使っています。親切に説明するのではなく、自分で学んでもらう、これを教員が後押しするという発想は、この教授に学んだことかもしれません。会社法制は、とくに職人技が必要になる分野かもしれず、職人のように精密で創造的な仕事ができる法律家が育てばと期待しています。

5. 高校生(法学部へ入学を希望している学生)へのメッセージをお願いします。

 サステナビリティが重視される時代になりました。

 人々の生活が持続可能であるためには、社会が持続可能でなければならず、そのために、法学・政治学が果たすべき役割は大きいと考えています。

 社会現象に対して好奇心が旺盛で、課題を自ら発見して、分析し、そして解決しようとする主体的な姿勢を期待しています。法学・政治学の考え方を用いて、明快で単純な規範や制度を構築しつつも、個々の人々に思いをはせて深い思考ができるよう、自分らしく勉学に取り組んでいただきたいと思います。

(令和6年6月25日)


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