生体の機能II-2017

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講師久場博司 教授
開講部局医学部/医学系研究科 2017年度 前期
対象者医学部2年 編入生3年人体の機能 (10単位全76回のうちの一部分(38回)をなす。)

授業の内容

生体の機能は、個体の新生、発達、維持のための機能(植物機能)と、外界の変化の受容、外界への働きかけ、そして高次の精神活動などの機能(動物機能)とに分けられる。 生体の機能 II の講義では主に植物機能について学ぶ。すなわち、ガス交換を行う呼吸機能、物質と熱の運搬に関与する循環機能、エネルギー摂取を行う消化吸収機能、老廃物の排泄機能、新個体発生のための生殖機能、これらを調節する内分泌系および自律神経系の機能を、分子・細胞レベルから、さらに組織・臓器・個体レベルにおいて包括的に理解することを目標とする。

この正常の生体機能を理解することで、異常状態としての疾患を扱う臨床医学を学ぶ基礎を身につける。

授業の工夫

生体の機能 II では、生体が内部環境の恒常性(ホメオスタシス)を維持するしくみを理解し、その破綻状態である疾患について学ぶ基礎を身につけることを目的としている。 生体は様々な臓器から構成され、これらが互いに連関・統御しながら働くことで、その内部環境が維持される。 これらの臓器は各臓器固有の細胞からなり、その機能は細胞に発現する分子の働きによって実現されている。 特に、近年の分子生物学の進歩により、これら分子に関する知見は飛躍的に増大している。 特に、近年の分子生物学の進歩により、これら分子に関する知見は飛躍的に増大している。 従って、本講義では、各臓器について 4〜6 コマを用いて、その機能と個体における役割を分子・細胞レベルの知見も含めて詳細に説明することで、生体機能を臓器縦断的に理解することを促している。 また、他の臓器との連関や統御のしくみについて随時概説することで、生体機能を臓器横断的に理解することも促している。 このように、各臓器の縦と横のつながりを意識することで、生体機能をシステムとして体系的に理解することを目指している。 講義では、以下の点を心がけている _ それぞれの知見が明らかになった実験過程を紹介することで、本質的な理解と論理的な思考を養う。 _ 学習目標を具体的に提示し、質問や小テストを積極的に行うことで、学生の問題意識を高める。 * 講義した内容が、日常の経験とどのように関連するのか、もしくは疾患とどのように関連するのかを紹介することで、学生の学習意欲を高める。

達成目標

  • 個々の臓器の機能と生体における役割を、その臓器に特有な構造、分子や細胞の特性に基づいて説明できるようにする。
  • 個々の臓器が、個体内で、どのように連関して機能し、生体の内部環境維持に関わるのかを説明できるようにする。
  • これらの生体機能のしくみを、それぞれが明らかになった過程から学ぶことにより、問題の本質を捉え、解決する力を身につける。

教科書

  • 生理学テキスト:大地陸男 著、文光堂(概要を理解するのに適した教科書)
  • 標準生理学:小澤瀞司、福田康一郎 編、医学書院(詳細を知りたいときの参考書)
  • ギャノング生理学:William F Ganong 著(岡田泰伸 監訳)、丸善(内分泌の記述に優れる)
  • スタンダード人体生理学:R F Schmidt/G Thews 編(佐藤昭夫 監訳)、シュプリンガー・フェアラーク東京(自律神経系の記述に優れる)

総括責任者

久場博司(細胞生理学、教授)

講義内容

講座等名 担当教員名
1 恒常性・体液 久場博司 教授
2 自律機能(末梢) 中村和弘 教授
3, 4 心臓・循環・血液 久場博司 教授
5, 6 心臓・循環・血液 久場博司 教授
7, 8 心臓・循環・血液 久場博司 教授
9, 10 呼吸(ガス) 佐藤純 客員教授
11, 12 呼吸(運動) 佐藤純 客員教授
13, 14 腎臓 中山晋介 准教授
15, 16 腎臓 中山晋介 准教授
17, 18 消化・吸収・分泌 中山晋介 准教授
19, 20 消化・吸収・分泌 中山晋介 准教授
21, 22 消化・吸収・分泌 中山晋介 准教授
23 代謝・体温 中山晋介 准教授
24 自律機能(中枢) 中村和弘 教授
25, 26 内分泌・生殖 山田玲 助教
27, 28 内分泌・生殖 山田玲 助教
29, 30 本能行動(概論・ストレス反応) 中村和弘 教授
31, 32 本能行動(摂食・代謝調節) 菅波孝祥 教授
33, 34 能行動(睡眠・生体リズム 山中章弘 教授
35, 36 本能行動(情動行動) 竹本さやか 教授
37, 38 まとめ 久場博司 教授

恒常性・体液

生体の植物的な機能の概略について説明する。

キーワード:内部環境、恒常性(ホメオスタシス)、水とイオンの体内分布

心臓・循環

心臓血管系は、血液を全身に循環させることにより、酸素、栄養物質、老廃物を輸送するとともに、体内の熱を再配分する役割を担っている。講義では,心臓の電気的活動とそのリズム発生機構、さらに心電図波形の発生原理について学ぶとともに、心筋の収縮機構とそれに基づく心臓のポンプ作用を心周期との関係から理解する。また、血管系の各要素の力学的特性、運動・出血などの需要の変化に応じた循環調節機序についても学習する。

キーワード:活動電位、プラトー相、ペースメーカー電位、興奮伝導系、特殊心筋、固有心筋、心電図誘導法、心ベクトル、興奮収縮連関、長さー張力曲線、フランク・スターリングの法則、心周期、心拍出量、体循環、肺循環、循環力学、循環調節

血液

血液の組成と性状、血漿タンパク質の役割、赤血球、白血球、血小板など各血球成分の機能と分化を中心に概説する。

キーワード:粘度、アルブミン、ヘモグロビン、鉄代謝、止血、凝固

呼吸

呼吸の基本は換気とガス交換である。換気に関しては、呼吸筋による呼吸運動と呼吸中枢による制御、さらに肺胞内の換気のしくみを理解する。ガス交換に関しては,肺と全身組織との間における酸素・二酸化炭素移送の動態について学習する。特に、ガス交換・運搬における赤血球のきわめて巧妙な働きの理解に重点をおく。

キーワード:肺気量、死腔、呼吸抵抗、コンプライアンス、表面活性物質、肺循環、呼吸中枢、呼吸筋、呼吸反射、内呼吸・外呼吸、拡散の法則、赤血球、ヘモグロビン、酸素飽和曲線、炭酸脱水酵素、Bohr 効果、塩素移動

腎臓は体液組成の恒常性維持に枢要な臓器である。特に哺乳動物においては、(a)水溶性老廃物の除去、(b)体液イオン組成の恒常性維持などの系統発生的に古い機能に加え、(c)体液浸透圧濃度維持、(d)体液量恒常性維持、(d)血圧調節、(e)赤血球数調節など、進化の過程で組込まれるに到った種々の機能がこの臓器に集積している。講義ではこれらの働きについて概説する。また、生体(細胞内液・外液)における pH および種々のイオンの調節機構についても説明する。

キーワード:ネフロン、濾過・再吸収、クリアランス(浄化率)、糸球体濾過量、膜輸送蛋白、能動輸送、対向流系、バソプレシン、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系、エリスロポイエチン、pH、イオンの恒常性

消化・吸収・分泌

消化管の運動は消化管壁に内在する平滑筋組織、神経、ペースメーカー細胞等の共同作業によって営まれており、それを外来神経である自律神経が調節する。これらのしくみについて細胞レベルでの概要を解説する。吸収に関しては,細胞膜において物質輸送を担うチャネル、キャリア、ポンプの構造と機能について述べ、胃や小腸や大腸の上皮細胞がこれら膜輸送蛋白を駆使してどのようにイオンや有機溶質や水を能動的に吸収・分泌しているかを解説する。また、栄養素吸収と運動性の関連や全身との関わりについても述べる。

キーワード:食道、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、小腸、大腸、平滑筋、壁内神経、ペースメーカー細胞、cell-to-cell coupling、slow waves、膜輸送蛋白、能動輸送、外分泌

代謝・体温

エネルギー代謝の基本概念、エネルギー平衡、運動時のエネルギー代謝、熱産生と熱放散の仕組、温度受容器の役割、体温調節中枢の働き、体温の異常(たとえば発熱と熱中症)、温度馴化のしくみ、および植物的な機能を制御する自律神経系の働きなどについて解説する。

キーワード:エネルギー平衡、基礎代謝、呼吸商、熱産生・放散、発熱、発汗

内分泌・生殖

内分泌系は細胞組織の分化、個体の成長・発育、代謝、種の保存のための生殖、環境の変化に対する適応などに重要な役割を果たしている。総論では、ホルモンの種類と合成経路、作用機序、分泌調節について概説する。各論では、視床下部―下垂体系ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎皮質及び髄質の各種ホルモン、各種の膵島ホルモン、各種のカルシウム代謝調節ホルモンの産生と作用について説明する。また、生殖に関して性分化や生殖機能における性ホルモンの働きとその異常についても解説する。

キーワード:フィードバック、受容体、視床下部、下垂体、甲状腺ホルモン、電解質コルチコイド、糖質コルチコイド、カテコールアミン、インスリン、糖尿病、副甲状腺ホルモン(PTH)、ビタミンD、カルシトニン、高及び低カルシウム血症、性ホルモン、性分化、生殖機能

自律機能・本能行動

自律機能と本能行動は協調して個体の内部環境維持に関与する。講義では、末梢自律神経系の構成と機能について述べ、さらにその中枢性調節や情動、本能行動との関わりについて脳幹や視床下部、大脳辺縁系の働きを中心に解説する。

キーワード:恒常性(ホメオスタシス)、交感神経、副交感神経、自律神経反射、ストレス反応、摂食行動、エネルギー代謝調節、飲水行動,体温調節行動、性行動、睡眠,概日リズム、情動行動

講義ノート

恒常性・体液


投稿日

May 16, 2020