ギリシア神話学-2015

講師吉武純夫 准教授
開講部局文学部/人文学研究科 2015年度 後期
対象者文学部2-4年生、文学研究科大学院生 (2単位週1回全15回)

授業の内容

神話とは何かと考えた時、昔話や御伽噺や伝説なら比較的たやすく説明できるのに、神話はなかなかすっきりと説明できないことに気付きます。神が出てくることは多いが、必ずしも神の話ではありません。荒唐無稽な話ばかりですが、子供だましでもありません。ギリシア神話のひとつひとつには、高度の脚色されたさまざまなヴァージョンがありますが、脚色をとりのぞいてゆくと単純なストーリーが残り、たいていそこには何らかの真実が力強く埋込まれています。似た話を並べてみることによってそれが見えてくることもあります。この授業は、そういう神話の性質を伝え、それぞれの神話の奥にある意味をさぐる力を涵養することを目指しています。それは、読んだり覚えたりして楽しむだけでなく、世界や人生や神をとらえ直したり、西欧人の考え方の枠組みを理解する助けにもなるはずです。

授業の工夫

ギリシア神話は相互に関連しあう話の集合体で、総量も膨大なので、いくつかの側面から整理した上で、その中から代表的な話を取り上げて、個別に分析したり共通点を探ったりするようにしています。

受講者には、個々の神話についてできるだけ複数のヴァージョンを読んでもらい(具体的には、19 世紀のアメリカ人作家であるブルフィンチがローマ時代の脚色を大いに取り入れながら子供でも読めるように書きなおした神話集である『ギリシア・ローマ神話』と、後 1 世紀の神話蒐集家アポロドーロスが散文的にまとめた『ギリシア神話』の2冊の岩波文庫を使用)、どこが脚色であるかを見抜き、その神話の骨格はなんであるかを各自があらかじめ考えるように仕向けています。それを解き明かすことが授業の中心ですが、また逆に、古代のその他の作家たちが脚色したテクストや美術を紹介して、そこにどういう意図が加えられているかをも検討します。

個々の神話は単純であっても、そこに見出される意味は高度に抽象的であったり哲学的であったりするので、分かりやすい説明を心がけ、また要点が確実に伝わるように書いたプリントを配ります。たくさんの固有名詞がでてくるので覚えられないという人もよくいますが、名前は覚えなくてよいと教えています。実際、この授業で大事なのは、覚えることでなく、話の意味を考えることだからです。

スケジュール

テーマスケジュール
1神話とは何か
2起源神話A 世界の成立
3B 人類の成立 プロメテウスとパンドラ
4神々の神話A 神々の名誉と領分
5B 神と人の恋
6英雄の神話A ヘラクレス
7B トロイア戦争とアキレウス
8C オデュッセウス
9家族の中の神話A タンタロス家
10B テーバイ王家
11C 死別する夫婦 オルフェウス/アルケスティス
12場所の神話A 山
13B 洞窟
14C 川と泉
15D 冥界

講義資料

1. 神話とは何か
2. 起源神話
  1. 世界の成立
  2. 人類の成立 プロメテウスとパンドラ
3. 神々の神話
  1. 神々の名誉と領分
  2. 神と人の恋
4. 英雄の神話
  1. ヘラクレス
  2. トロイア戦争とアキレウス
  3. オデュッセウス
5. 家族の中の神話
  1. タンタロス家
  2. テーバイ家
  3. 死別する夫婦 オルフェウス/アルケスティス
6. 場所の神話
  1. 洞窟
  2. 川と泉
  3. 冥界

成績評価

定期試験のペイパーテストによる。神話を具体的に記述しその意味を的確に説明することができるかどうかを中心に見る。

教科書

  • ブルフィンチ著、『ギリシア・ローマ神話』(岩波文庫)
  • アポロドーロス著、『ギリシア神話』(岩波文庫)

参考書

  • R.バクストン著、『ギリシア神話の世界』(東洋書林、2007)
  • 吉田・松村著、『神話学とは何か』(有斐閣新書、1987)
  • 松村一男著、『神話学講義』(角川書店、1999)
  • 西村賀子著、『ギリシア神話:神々と英雄に出会う』(中公新書、2005)。

これらの本は関心に応じて読んでください。


投稿日

April 29, 2020