基礎セミナー「法」と紛争解決―民事事件を通じて考える-2015

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講師吉政知広 教授
開講部局教養教育院 2015年度 前期
対象者文学部、教育学部、経済学部、法学部 (2単位週1回全15回)

授業のねらい

セミナーのテーマ: 「法」と紛争解決――民事事件を通じて考える

日本では、「法」が適用される場面というと刑事裁判をイメージする人が少なくありません。しかし、「法」の本来の機能は社会の中の様々な紛争を解決することにあります。このセミナーでは、なぜ、「法」によって紛争を解決するという仕組みが要請されるのか、主に民事事件を素材に検討します。それを通じて、「法」の役割・意義について考えることがこのセミナーのねらいです。その中で、情報を調査・収集する能力、論理的な思考力、プレゼンテーションの能力を涵養することも目指します。

授業の工夫

大学などの法学の授業では、主に、各種の法律がどのような規律を定めているのかを学習します。社会において様々な利益が対立することは避けられず、法律が紛争解決手段として重要な役割を果たしていることを踏まえるならば、そのことには十分な理由があるといえます。

しかしながら、法律によって各種の紛争を解決するということは決して自明のことではありません。武力による紛争の解決、社会の実力者による裁定など、様々な方法によって紛争を解決することは可能ですし、実際、太古の時代から今日に至るまで、多様な紛争解決手段が用いられてきています。そこで、このセミナーでは、「法」によって紛争を解決するということの意義、さらにはその限界について参加者全員で考えてみたいと思います。このような考察を通じて、「法」をもつということが何を意味しているのか、理解を深めることがセミナーのねらいです。

こうしたねらいを達成するために、このセミナーでは、法律が存在しない社会において各種の紛争がどのように解決されるのか、架空の事例を素材とした「交渉ゲーム」を実際に行なってみます。そして、「交渉ゲーム」において受講者の皆さんが到達した結論と、当該事例に日本の法律を適用した場合の結論を比較・検討することを通じて、「法」を用いた紛争解決の特徴・意義について考察を深めます。実際に「交渉ゲーム」を体験してみることによって、教科書などを読んだだけの場合よりも考えを深めることができるはずです。

さらに、このセミナーでは、日本社会における法の適用・運用に関してこれまで研究者がどのような分析を行なってきたのか主要な論文の講読も行ないます。「交渉ゲーム」の経験やその後の考察を踏まえて文献を読むことで、より深く、批判的に文献を理解できるはずです。

授業の内容

目的を達成するために、セミナーの前半では、参加者で 3 名程度のチームを作り、具体的な紛争例を素材として、ある紛争における適切な解決をめぐる交渉ゲームを行ないます。議論の準備に必要となる文献の調査方法などについても、授業の冒頭で説明を行ないます。さらに、「法」による紛争解決の意義・限界について一定の理解をもつと、法律家の間で争われている様々な問題の意味について、より深く理解できるようになります。セミナーの後半では、日本社会における法の適用・運用に関する重要な文献の講読を行ないます。

  1. ガイダンス (授業内容・進行方法の説明、報告グループの決定など)
  2. リーガル・リサーチ (文献・裁判例の調査・利用方法、図書館の利用方法)
  3. 交渉ゲーム: 受講者でチームを作り、ある紛争をめぐって対立している当事者の立場から、当該紛争の解決方法をめぐって交渉ゲームを行ないます。
  4. 法律による解決の調査報告・議論: 交渉ゲームで取り上げた紛争に法律が適用されるとどのような解決がされるのか、受講者に調査報告をしてもらいます。受講者の交渉ゲームで示された解決との間にどのような異同があるのか、その原因は何かなどについて議論を行ないます。
  5. 文献講読:文献の内容を理解した上で、交渉ゲームの経験を踏まえて、従来の研究業績の意義や限界について受講者で議論をします。

教科書

なし、授業で用いる資料を配布します。

参考書

文献講読では、下記の文献を取り上げます。

  • 川島武宜『日本人の法意識』(岩波新書・1967 年) 第 5 章「民事訴訟の法意識」(『川島武宜著作集 第 4 巻』(岩波書店・1982 年) 320 頁以下)
  • マーク・ラムザイヤー『法と経済学――日本法の経済分析』(弘文堂・1990 年) 第 2 章「和解と訴訟の合理的選択」

履修条件

具体的な紛争例について、参加者で議論をするというスタイルを採用する予定です。議論へ向けて、毎週、十分な準備を行なう能力・意欲があること、および、議論に積極的に参加する姿勢をもつことが履修のための条件です。

スケジュール

講義内容
1 ガイダンス
2 グループ決め・図書館ガイダンス
3 交渉ゲーム 事件①
4 交渉ゲーム 事件②
5 交渉ゲーム 事件③
6 交渉ゲーム 事件④
7 中間総括 その1
8 裁判による解決 事件①
9 裁判による解決 事件②
10 裁判による解決 事件③
11 裁判による解決 事件④
12 中間総括 その②
13 文献講読 ①
14 文献講読 ②
15 総括

講義ノート

事件その 1: 雨の夜の事故

事件その 2: 時代の荒波と職場

事件その 3: 食品と安全

事件その 4: 信仰をめぐる争い

成績評価

授業における議論への参加 (50%)、授業における報告 (25%)、レポート課題 (25%)。出席はもちろん、議論への参加が重要な評価対象になることに留意して下さい。


投稿日

February 24, 2017