あたらしい学校建築—名大建築3年生が考える附属学校の校舎-2011

course
講師小松尚 准教授
開講部局教育学部附属中・高等学校 2011年度 特別講義
対象者附属高校1、2年生

授業の内容

昨年度から附属学校の校舎のあり方を考え、提案する設計課題を名大建築 3 年生の設計演習の中で取り組んでいます。日本の学校建築は戦後、標準化された校舎建築を全国一律に適用する方法で建設されてきました。皆さんが勉強し、生活した学校は、通った学校は違えども、おそらく同じような校舎だと思います。しかし、学校建築のあり方を考え直す機運は 1970 年代からあり、全体の数からすればまだまだ少ないですが、新しい学びの場、そして生活の場としての学校建築が生まれています。建築家ルイス・カーンは「学校は木の下のひとりの男とともに始まりました。自分が教師であることを知らない一人の男が、自分たちが学生であることを知らないわずかの人たちと自らの自覚について話していました。・・・」と語っています。普段見慣れた学校建築を忘れて、学びの場について一緒に考えたいと思います。

授業の工夫

学校建築の設計演習は、建築を学ぶ学生なら一度は取り組む課題です。その課題内容は、教員がテーマを考えつつ条件設定を行い、数回のディスカッション(建築ではこれをエスキスと言います)を経て、学生は自らの提案を図面や模型等で表現し、発表し、教員が講評するというのが一般的な構成です。

一方、附属学校は意欲的な教育プログラムに取り組んでおり、また校舎の建替計画の議論が始まっていました。先生方や生徒たちの意向も整理されていたので、これを拝借しながら新たな学校建築の可能性を学生とともに考える演習課題を仕立てて、実施しました。

このような経緯で取り組まれた演習課題ですから、その成果を附属学校にフィードバックして意見を聞きたくなります。2010 年度は工学部建築学コース内での講評会の後、選抜された学生が附属学校に夕方出向いて先生方に、また学校祭では生徒たちに発表を行いました。この時の手応えに気をよくして、2011 年度は中津川でのセミナーに学生8名と一緒に乗り込んで発表をし、附属学校の生徒たちと意見交換を行うことにしました。

身近な人工環境を新鮮な目で考えて、課題を見つけて提案し、それを共有して議論し、そしてもう一度考えてみる。これは建築や都市の計画や設計を実際に行う際の共通したプロセスです。よってこのセミナーは、建築を学ぶ学生と附属学校の当事者である生徒の間で、仮想的ではあるが新たな学校建築に関するアイデアの共有と議論を行う場となりました。

セミナーに参加した生徒達は、建築学コース内の教員相手の講評会とは異なり、いわば設計のクライアント(依頼者)になります。自ずと説明の仕方が変わってきます。それがこのセミナーで発表を行う重要な目的なのです。専門用語を駆使した説明ではなく、図面や模型を駆使しながら一般の人にどうしたらわかってもらえるのか。学生も大いに悩みました。中には、授業や生活のシーンを物語のように語りかける学生も。普段の講評会ではなかなかできない発表がここでできたことは、担当教員として大きな喜びでした。

これに対して、附属学校の生徒には、ありのままの感想や意見を投げかけて欲しいと思っていました。とはいえ、セミナーの開始時間までいろんなケースを想定して、その対応方法を考えていたというのも偽らざる事実です。しかし始まってみたら、それは杞憂でした。おそらく、生徒たちにとっては初めて見たであろう大きな模型と図面に表現された、普段見慣れた附属学校の校舎とは異なる趣の建築の姿。それを目の当たりにして、生徒たちは最初こそは驚きの声を上げていたものの、次第に様々な質問を学生に浴びせるようになっていったのでした。

生徒の質問は、実際のクライアントが抱く素直な疑問であり希望といえるものでした。そしてそれを、専門家から見れば未熟かもしれないけれども、自らが設計した設計案を元に答えていく大学生。普段出会うことがない高校生と大学生が心地よい緊張感を持ちながら、現状批判ではなく将来を語り合えたことが、このセミナーを有意義なものにしたと思います。

授業の構成

  1. イントロダクション(20 分)
  2. 名大建築 3 年生 8 名によるパネル発表(1 時間 20 分)
  3. グループ討論(50 分)
  4. グループ発表(20 分)

使用物品

  1. PC、プロジェクタ、スクリーン
  2. パネル、模型(名大生が事前に作成)
  3. 模造紙(4 班 ×1 枚)、付箋(4 班 ×1 セット)、マジックペン(4 班 ×1 セット)

講義ノート

あたらしい学校建築—名大建築 3 年生が考える附属学校の校舎—


投稿日

May 16, 2020