中国西南の民族と歴史-2014

講師林謙一郎 准教授
開講部局文学部/文学研究科 2014年度 後期
対象者文学部3・4年生 (2単位週1回全15回)

授業の内容

この講義で扱う中国西南部の少数民族は、中国伝統王朝の周縁にあって、つねに中国文明と接触しながら自らの歴史・文化を形成してきました。歴史文献は常に多数派、この場合でいうと中国王朝の立場から書かれるものですが、私はそれを、少数派である西南民族の立場から読み直したとき何が見えてくるかを、皆さんとともに考えたいと思います。またこのような見方は中国と他のアジア諸国、近代の欧米とアジア諸国といった関係を考える上でも有益なのではないかと考えています。

授業の工夫

文学部の授業、特に歴史の授業となると、授業中は板書をノートに書き写すことに終始してしまうことが多いのではないかと思います。キレイにノートを取ってくれるのは嬉しいことですし、とくにこの授業で扱う内容は、日本語でかかれた参考文献がほとんどないため、写しておかないと不安になる、というのもわかります。

しかし、板書するような内容 − 重要な事件やその年代、地名、人名 − を暗記させることがこの授業の目的ではありませんし、大学で学ぶ歴史学の求めるものでもありません。その時代・場所で物事がどのように推移していき、後の時代にどのような影響を与えたか、という「歴史の流れ」を感じ取ってほしいのです。

そこでこの授業では板書する代わりに毎回スライドを使い、重要事項もそこに写すようにしています。地図や写真などもふんだんに用意して、話題の中心、中国雲南省の様子を肌で感じてもらおうと努力しています。このスライドは授業の後で私の WEB ページから参照できるようにしていますから、「書き漏らしてわからなくなる」心配はありません。これなら安心して講義の内容に集中し、古(いにしえ)の雲南地方に思いをはせることができるでしょうか?

授業の目標

この授業を通じて身につけてもらいたい内容は次のとおり。

  1. 中国西南の少数民族地帯の存在と、その歴史の概略を理解する。
  2. 中国文明の周辺における政治統合・民族意識の発生について理解する。
  3. 2 のような動きが各地で並行的に生じていることについての認識を深める。
  4. 以上を通じて、中国を中心とするアジア世界(日本を含む)の歴史・文化について複眼的にとらえる視野を養う。

バックグラウンドとなる科目

中国史学史・中国史史料論

(基本的な中国史の概略、中国史の主要資料についての知識があることが望ましい。ただし重要事項については授業中でも触れるので、必須ではない)

参考文献(順不同)

(中国少数民族一般)

村松一弥『中国の少数民族』毎日新聞社,1973 年

『中国少数民族』人民出版社,1981 年

馬寅主編,君島久子監訳『概説中国の少数民族』(1の翻訳)三省堂,1987 年

李家正文『中国古代の諸民族』木耳社,1989 年

江応梁主編『中国民族史』(上・中・下)民族出版社,1990 年

郭大烈・董建中(編)『中華民族知識通覧』雲南教育出版社,2000 年

田継周『先秦民族史』四川民族出版社,1996 年

田継周『秦漢民族史』四川民族出版社,1996 年

白翠琴『魏晋南北朝民族史』四川民族出版社,1996 年

盧勛,蕭之興,祝啓源『隋唐民族史』四川民族出版社,1996 年

陳佳華[他]『宋遼金時期民族史』四川民族出版社,1996 年

羅賢佑『元代民族史』四川民族出版社,1996 年

楊紹猷,莫俊卿『明代民族史』四川民族出版社,1996 年

楊学琛『清代民族史』四川民族出版社,1996 年

(雲南史一般)

尤中『中国西南的古代民族』,雲南人民出版社,1980 年。

尤中『雲南民族史』,雲南大学出版社,1994 年。

馬曜主編『雲南簡史』,雲南人民出版社,1983 年。

方国瑜『中国西南歴史地理校釋』中華書局,1987 年。

方国瑜(林超民主編)『方国瑜文集』第一輯, 雲南教育出版社,1994 年。

陸韌『雲南対外交通史』雲南民族出版社,1997 年。

(南詔・大理国史・白族史に関する研究)

藤澤義美『西南中国民族史の研究 − 南詔国の史的研究 −』大安,1969 年。

白鳥芳郎『華南文化史研究』,六興出版,1985 年。

牧野修二「南詔国における段氏の地位」『愛媛大学歴史学紀要』6,1959 年。

牧野修二「南詔国の官制 − 中央官制を中心として」『愛媛大学紀要(人文科学)』6-1,1959 年。

牧野巽『牧野巽著作集』4,お茶の水書房,1985 年。

武内剛「南詔・大理国の国家構造に関する一考察」『立命館史学』第 11 号,1990 年。

松田孝一「雲南行省の成立」『三田村博士古稀記念東洋史論叢』1980 年。

林謙一郎「南詔国の成立」『東洋史研究』49-1,1990 年。

林謙一郎「南詔・大理国の統治体制と支配」『東南アジア − 歴史と文化 −』28,1999 年。

林謙一郎「南詔国後半期の対外遠征と国家構造」『史林』75-4,1992 年。

林謙一郎「元代雲南の段氏総管」『東洋学報』78-3,1996 年。

林謙一郎「「中国」と「東南アジア」のはざまで—雲南における初期国家形成」『岩波講座東南アジア史I原史東南アジア世界』岩波書店,2001 年。

方慧「天暦兵変之後的段元関係」『雲南社会科学』1989-6。

方慧「行省・宗王・段氏並立時期的段元関係」『思想戦線』1989-6。

白族簡史編写組『白族簡史』,雲南人民出版社,1988 年。

方齢貴「大理五華楼新出元碑史料価値初探」(一)(二)『雲南文物』15・16,1984 年。

木芹会証『南詔野史会証』雲南人民出版社,1990 年。

王叔武校注『大理行記校注・雲南志略輯校』雲南民族出版社,1986 年。

王雲・方齢貴「大理五華楼新出元碑選録并注釋」『西南古籍研究』(雲大西南古籍研究所),1985 年。

楊仲録・張福三・張楠主編『南詔文化論』雲南人民出版社,1991 年。

雲南省編集組『白族社会歴史調査』(四),雲南人民出版社,1991 年。 (大理白族世襲総管和土官世系調査/大理白族古代碑刻和墓誌選輯 − 張錫禄・田懐清)

張旭『大理白族史探索』雲南人民出版社,1990 年。

張錫禄『南詔与白族文化』華夏出版社,1991 年。

趙鴻昌輯著・袁任遠審訂『南詔編年史稿』,雲南人民出版社,1994 年。

段玉明『大理国史』,雲南人民出版社,2003 年。

(史料)

方国瑜『雲南史料目録概説』中華書局,1984 年。

楊世鈺主編『大理叢書金石編』中国社会科学出版社,1993 年。

方国瑜(主編)『雲南史料叢刊』第一巻〜第十三巻,雲南大学出版社,1998 年〜2002 年。

大理州文聯(編)『大理古佚書鈔』,雲南人民出版社,2002 年。

林謙一郎(編)「雲南・東南アジアに関する漢籍史料」

http://toyoshi.lit.nagoya-u.ac.jp/maruha/kanseki/

課題

過去に出題した試験問題は以下のようなものです(年度によって講義内容には違いがあります)。

スケジュール

講義内容
1 中国西南とその民族の概況(導入)
2 秦漢〜魏晋南朝:西南夷の「発見」と南中社会の成立1『史記』西南夷列伝と滇国
3 秦漢〜魏晋南朝:西南夷の「発見」と南中社会の成立2「滇人」と古代「洱海人」
4 秦漢〜魏晋南朝:西南夷の「発見」と南中社会の成立3「南中大姓」の出現
5 秦漢〜魏晋南朝:西南夷の「発見」と南中社会の成立4「南中大姓」と爨氏の「夷化」
6 隋唐の雲南経営と西南民族1隋〜唐初の南中経営
7 隋唐の雲南経営と西南民族2吐蕃の出現と西爨・東爨
8 唐代雲南の烏蛮と白蛮
9 南詔国による雲南統一1蒙氏の勃興と「反唐帰蕃」
10 南詔国による雲南統一2南詔国の国内体制
11 南詔国による雲南統一3南詔国の民族系統/再帰唐への道のり
12 南詔国後期の対外関係1再帰唐から成都侵攻まで
13 南詔国後期の対外関係2 9世紀後半の対唐軍事遠征
14 南詔国の滅亡(公主降嫁の末から王嵯の簒奪まで)
15 まとめ

講義ノート

第 1 回 雲南省とその民族の概況

第 2 回 秦漢〜魏晋南朝: 西南夷の「発見」と南中社会の成立 1

第 3 回 秦漢〜魏晋南朝: 西南夷の「発見」と南中社会の成立 2

第 4 回 秦漢〜魏晋南朝: 西南夷の「発見」と南中社会の成立 3

第 5 回 秦漢〜魏晋南朝: 西南夷の「発見」と南中社会の成立 4

第 6 回 隋唐の雲南経営と西南民族 1

第 7 回 隋唐の雲南経営と西南民族 2

第 8 回 唐代雲南の烏蛮と白蛮

第 9 回 南詔国による雲南統一 1

第 10 回 南詔国による雲南統一 2

第 11 回 南詔国による雲南統一 3

第 12 回 南詔国後期の対外関係 1

第 13 回 南詔国後期の対外関係 2

第 14 回 南詔国の滅亡

成績評価

細かな事項を暗記することではなく、全体の流れをつかむことにこそ意義がある、ということで、細かな課題を出すことはしていません。成績評価は期末に行う論述試験によっておこないます。
期末試験は授業中に作成したノート(自筆に限る。他人のノートのコピーは不可)と、配付資料の持ち込みを許可し、ここでも記憶を試す試験ではなく、授業で学んだことをもとに受講者自身の考えを論述してもらうことに重点を置いています。


投稿日

May 08, 2020