
河野 正憲 (かわの・まさのり) 法学研究科教授 退職記念講義名大トピックス178号 22ページにて、河野教授の定年退職にあたってのご挨拶をご覧いただけます。* [名大トピックス178号](http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/publication/upload_images/no178.pdf) (PDF 文書 ....
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名古屋大学法学部が創設されたのは、いまから 72 年前となります。1950 年 4 月、当時の法経学部が法学部と経済学部に分離され、法学部が誕生しました。その3年前に日本国憲法が施行されています。当時の教職員、学生は戦前、戦中、敗戦の経験を深く胸に刻みつつ、民主主義と平和に貢献するための法学・政治学の研究教育に取り組んだことと思われます。そして、1953 年には大学院法学研究科が設置されました。
法学部の創立 50 周年を機に、法学部と法学研究科はアジア、ヨーロッパを舞台に国際展開を進め、海外の主要大学の協力を得て、多くの研究教育拠点を作りました。2004 年には法科大学院を設立しました。国内外に法学・政治学の研究教育拠点を形成してきたことが、名古屋大学法学部・法学研究科の特色となっています。
ご存じのように、2019 年末に始まった新型コロナウィルス感染症によるパンデミックは、われわれの生活を根底から覆しました。その影響はすでに不安定な状態にあり、新たな打撃を吸収できる力がもっとも弱い人々に不均衡に重くのしかかり、社会経済におけるとてつもなく大きな欠陥や弱点、そして分断を明らかにしました。
人権と民主主義を基礎とした復興のためにも、われわれはこれまでの研究教育を受け継ぎ、その実績を基礎として、未来社会に向けた法学・政治学の課題によりいっそう積極的に挑戦していきたいと思います。困難を乗り越え、新しい社会を創造する法と政治を、名古屋大学法学部・法学研究科で一緒に探求できればと思います。
法学部/法学研究科長 矢野昌浩 教授
法学部・法学研究科長の矢野昌浩教授に5つの質問に答えていただきました。
1. 法学部・法学研究科の強み(醍醐味)を教えてください。
法学部は1学年150名ほどの小規模な学部です。教員スタッフは約60名おり、スタッフ1人当たりの学生数は、1学年あたり3名程度ですので、充実した少人数教育が期待できます。また、系統的なカリキュラムが用意され、法学と政治学を同時に学ぶことができます。必修科目がありませんので、どのような科目を履修するかは、学生が自由に判断し、選択することができます。
名古屋大学法学部・法学研究科の最大の特徴は、20年にわたり積極的に国際展開を行い、世界に多くの教育研究拠点を有していることです。アジア、アセアンの主要大学との間には、学生の派遣と受け入れを行う研修プログラムがあります。ヨーロッパへの留学支援も行っています。学部4年間を通じて英語で学べるコースもあります。さらに、アジアの主要大学に日本法を日本語で学ぶ教育拠点があり、そこから毎年、優秀な学生が大学院に入学してきます。また、法科大学院には、国際的視野を持ち、教養豊かな法曹養成を目指せるカリキュラムが用意されています。法学部を 3 年で卒業し、法科大学院に進学できる 5 年制の法曹コースも 2019 年度から始まりました。
このように、学部、大学院のいずれにおいても、多彩なプログラムが豊富にあること、充実した少人数教育が行われていること、国際的な視野をもった学習ができることが強みと言えます。
2. 法学部・法学研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育ってほしいですか。
名古屋大学の学生たちについては、まじめである、そして、ややもするとおとなしいように見受けられがちなのですが、芯の部分の強さがあるということがよく言われるようです。そのことを裏付けることになるのかもしれませんが、法学部には、自分の夢やプランを実現するために努力を惜しまないという点で、優れた資質を持った学生がたくさんいます。また、その努力を身近な方々がサポートしてくださる環境にいらっしゃることが多いと思います。
しかし、是非、これまで慣れ親しんだのとは異なる世界や環境で、自分の見方や発想と異なる考え方をもつ人たちと交流して、その意見に耳を傾けてみてください。そして、なぜそのようなことを言われるのかを、相手の立場にたって考えてみるようにしてみてください。そのうえで、それでも自分にとって軸となる思考方法をみつけていただければと思います。
名古屋大学には、全学向けの学生のための様々なセミナー、研修が開催されており、また、世界中から留学生が集まっていますので、交流の機会もたくさんあると思います。さらに、法学部ではさまざまな留学の機会が提供されています。こうした環境を是非、活用して、経験を積み重ね、想像力を育てていただきたいと願っています。
3. 法学部・法学研究科のビジョンを教えてください。
3 点に分けて話をさせていただきます。第 1 に、名古屋大学は、我が国の科学研究をリードする有数の研究教育拠点です。法学部・法学研究科もまた、次世代の法学と政治学の分野での研究者養成を行うことを使命としており、多種多様な教育カリキュラム、支援プログラムを通じて取り組んでいきます。
第 2 に、国際的には、名古屋大学法学研究科と密接な関係をもって運営されてきた法政国際教育協力研究センター、および日本法教育研究センターと協力し、アジア諸国の法整備支援の研究と人材育成をさらに発展させていきます。また、研究教育に関して我が国有数の国際交流拠点となっている名古屋大学で、日本人学生、留学生がともに学び、内外の様々な課題に取り組む人材育成を行っていきます。
第 3 に、実務法曹養成は、法学の基幹大学としての重要な使命です。学部と大学院との一貫教育、国際感覚と幅広い教養を身に着けるカリキュラムを通じ、様々なニーズにこたえることのできる多彩な人材を社会に送り出していきます。
4. 矢野先生ご自身が学生だった時、印象的な授業はありましたか。
もうすでに 40 年ほどまえとなりますが、思い出すのは 2 つの授業です。1つは、法学部の 1 年次向けの授業であり、専門科目への導入となる入門的な授業でした。1 年間に渡る授業で、前半と後半で別々の先生が担当されていました。いずれの先生も、それぞれの専門分野で高度な理論水準の研究をされているらしいことは、当時の私もうわさとして聞いていました。そのような先生方が、初めて法学を学ぶ学生に向けて平易で分かりやすく、ご自身が長年の研究生活で探求されてきた問題や理論についてお話をしてくださいました。自分の考えてきたことを広く後進に伝えたいというお気持ちに裏付けられた授業であったように思い出します。
もう1つは、法学部の 4 年次を対象とした専門科目の授業でした。これも 1 年間に渡る授業で、お一人の先生が担当されていました。人権保障という点で現在もなお未解決のままとなっている日本法の問題点を改めるべく、長年裁判にも関与されつつ、理論構築をされてきた先生でした。さらに、語学に堪能で、外国法に関する学識も広くかつ深く、国際的な視野に長けた先生でした。そのご活躍は国際機関を舞台にされたこともありました。授業の内容も、ご自身の専門分野を通じてなのですが、人間およびその社会と法・権利との関係について、学生に自ずと考えを向けさせるような内容であったと記憶しています。
いずれの授業もレジュメなどの資料配布はなく、先生方が話される内容を学生がノートにとるという昔ながらの授業でしたが、授業を受けることで学問の世界に触れたような気がしました。
5. 高校生(法学部へ入学を希望している学生)へのメッセージをお願いします。
学生を意味する英語の student の語源は、「熱中する者」、「努力する者」です。大学在学中になにか熱中できるもの、努力できるものをみつけられることを願っています。そして、みなさんの多くは大学で勉強されたあと、職業、つまり profession の世界に移られます。profession というのは profess、つまり「公に言う」という言葉を語源とします。なにを言うのかというと、自分はこれこれのことができる、ということを社会に明言するということです。なにかへの熱中からそれに基づく自分のアイデンティの公言へのプロセスが、大学生活なのだろうと思います。
古代ローマの時代から社会正義の実現のために綿々と積み重ねられて発展してきた法は、人類共有の財産であると言えます。法学について、「パンのための学問」であると言われることがあります。法学は、純粋な学問ではなく、あくまでも生活の糧を得るための手段として学ばれるにすぎないという揶揄が、これには込められています。しかし、法学はパンを求める人、必要とする人たちに、パンを与えるための学問であると私は思います。学ぶこと、そして考えること、想像することを、ぜひとも続けていただければと思います。
私からは以上となります。
(令和4年7月12日)
河野 正憲 (かわの・まさのり) 法学研究科教授 退職記念講義名大トピックス178号 22ページにて、河野教授の定年退職にあたってのご挨拶をご覧いただけます。* [名大トピックス178号](http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/publication/upload_images/no178.pdf) (PDF 文書 ....
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本講義は、民法第2編に規定されている物権を扱うものである。物を所有・支配する、取引により物を流通させる、担保により債権回収の実をあげる等、物権法の規律する法理は経済活動の根幹をなすものであり、古くから学説・判例が緻密な理論を積み重ねてきた。加えて近時は、区分所有法や担保法の改正等、この領域でも社会の複雑化・多様化にあわせ、新たな動きが種々みられる。この講義を通じて、経済秩序の基底にあるものを理解し ....
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私が名古屋大学で過ごした期間は42年になる。1977年に大学院に入学し、1984年から助教授として教壇に立つことになった。この約40年間を振り返ると、高度成長から低成長、さらにはゼロ成長への転換があり、国際的には冷戦の終結と社会主義の崩壊があった。他方では、大学院時代には夢にも思わなかったICTの急速な発達によって、原稿は手書きからパソコン入力に変わり、資料の入手もほとんどがネットで可能にな ....
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