授業の内容
本授業は,18 歳未満の発達期になんらかの障害をもった子どもたちが乳幼児期から成人,老年期に至るまでの作業療法の治療理論と技術を学習し,身につけることを目指しています.病気や事故から生じた障害と共に,子どもたちが自分らしく社会と共生しながら,自己実現できるような支援体制の中で,子どもたちにとって意味のある作業活動(例えば,日常生活活動,遊び,趣味,学習,買い物,レジャーなど)を手段として作業療法を実施します.また,さまざまな障害により身体機能,心理機能が環境との関係性から上手く機能しなくなる要因を科学的に分析し,機能を回復する治療や発達を促す援助,回復した機能をベースにしてより良く環境に適応するための活動や参加の方策を考え出すための理論と技術を学びます.講義では,発達障害をもつ子どもたちの実際のビデオをもとに疾患ごとに障害の特性を学びます.実習では発達障害をもつ子どもの活動制限の様子をビデオから理解し,学生ひとりひとりが適切な評価を実施します.そして実習後のディスカッションを通じて,治療または支援が必要となる課題を整理し,作業療法計画(治療計画や支援計画)を立案するまでを学びます.つまり,作業療法学が実践学であることを知るための扉を叩く授業といえます.
授業の工夫
- 実際の発達障害をもつお子どもの運動,動作,行為を示した VTR を使用し,評価と治療計画を立案する(実習).
- ディカッションを取り入れる.
- 学生の実習課題に対しては,モデルとなる正答を準備する.
授業の目標
発達的作業療法学実習では,「発達障害」を対象とする作業療法治療学について学ぶ.発達障害は人生の初期の段階(一般に胎児期から 18 歳頃までの発達期)で受けた障害が個人の一生涯にわたってさまざまな能力に重篤な影響を及ぼす場合をいう.本授業の目標は,各疾患別障害の特性を理解したうえで,活動や参加,それらの制限や制約について国際生活機能分類に基づき統合し,作業療法計画を立案できることにある.
教科書
- 日本作業療法士協会監修:作業療法学全書,発達障害.協同医書出版社,2010
- 辛島千恵子:発達障害をもつ子どもと成人,家族のための ADL,作業療法士のための技術の絵本.三輪書店,2008
副教科書
- 辛島千恵子編集:発達障害をもつ子どもと成人,家族のための ADL,作業療法士のための技術の絵本,実践編.三輪書店,2008
授業の進め方
講義と実習.ビデオにより評価を実施する.
参考資料
- 岡本夏木: 子どもとことば.岩波新書,1985, pp.15-82.
- 佐竹孝之: 重度心身障害児のニーズに関する調査研究.平成 2 年厚生省心身障害研究:116-126.1999.
- カレル・ジャーメン,アレックス・ギッタメン:エコロジカルソーシャルワーク.学苑社,1992,101-120.
- 氏家達夫: 認識と文化 5,親になるプロセス.金子書房,1996,pp.12-245.
- Crowe TK: Time use of mothers with young children: The impact of a child's disability. Dev Med Child Neurol35:621-630,1993.
- TK VanLeit B, Berghams KT: Mothers’perception of child assistance The impact of child’s disability.Am J of Occup Thera 54:52-58,2000.
- 氏家達夫: 乳幼児と親の発達.講座生涯発達心理学 2,金子書房,1994, pp.99-116.
- 氏家達夫: 家族.発達 73(19):53,1998.
- 氏家達夫: 子育てと親育ち.発達 73(19):13-20,1998.
- 今川忠男: 発達障害児の新しい療育.三輪書店,2000,pp.2-25.
- Crowe TK: Time use and role perceptions of mothers with young children. The impact of a child’s disability.Unpublished doctoral dissertation,University of Washington Seattle,1991.
- 今川忠男: 発達障害をもったこどもたちの生涯発達.作業療法 16:349-353,1997.
- 永井洋一他: 感覚統合と脳のしくみの話.佐藤剛(監修): 感覚統合 Q&A.pp140-177,2000
- WHO: 国際生活機能分類.中央法規,3-23,2003
- 岩崎清隆,岸本光夫: 発達障害と作業療法.実践編,2002, pp.40-135.
- 岩崎清隆,岸本光夫: 発達障害と作業療法.基礎編.
- 鷲田孝保他: 重症心身障害児療育ハンドブック.厚生省保健医療局国立療養所課(監修),1983.pp.1-60.
- 金子芳洋,向井美恵,尾本和彦: 食べる機能の障害.1987 p44,
- 鷲田孝保: 小児作業療法の実際.日本作業療法士教会(編):発達障害・作業療法学 3.協同医書出版,pp157-198,1997
- 小越信子: 整形外科疾患.日本作業療法士教会(編):発達障害・作業療法学 3.協同医書出版,1997. pp.325-343.
- 岩崎清隆: 自閉症.日本作業療法士教会(編):発達障害・作業療法学 3.協同医書出版,1997, pp.403-443.
- 佐籐 剛: 発達障害に対する作業療法の理念と役割.第 6 巻作業療法学 3「発達障害」.協同医書出版,1999, pp.2-14.
- 中山 修: 精神発達の障害に対する作業療法.第 6 巻作業療法学 3「発達障害」.協同医書出版,1999, pp.182-208.
- 茂原直子: 運動障害の作業療法.第 6 巻作業療法学 3「発達障害」.協同医書出版,1999 ,pp143-181.
- 岸本光夫: 脳性麻痺児の日常姿勢指導.作業療法マニュアル,発達障害児の施設指導.日本作業療法士協会,1996, pp.1-23.
- 辛島千恵子: 精神遅滞児の日常姿勢指導.作業療法マニュアル,発達障害児の施設指導.日本作業療法士協会,1996, pp.24-41.
- Rona A, Regi B, Barbara C: 機能的姿勢,運動スキルの発達.高橋智宏(監訳),協同医書出版社,2004, pp.47-246.
- Nancie R, Finnie: 脳性麻痺児の家庭療育.梶浦一郎,鈴木恒彦(訳),医歯薬出版株式会社,1999 ,pp.175-233.
- 山田美智子: 医療的対応.江草安彦(監修),重症心身障害通園マニュアル.医歯薬出版株式会社,2000 ,pp.130-143.
- 辛島千恵子,生田宗博: 親と子の発達とホームプログラム.OT ジャーナル 35:382-388,2000.
- 辛島千恵子: 小児期の作業療法評価と ICF.なにわ
- 辛島千恵子,加藤哲也,安本大樹: 行動分析に基づいた摂食指導.OT ジャーナル 29:437-442,1995.
- 辛島千恵子,野村忠雄: 精神遅滞児のセルフケアに対する作業療法.OT ジャーナル 24:408-413,1990.
- 辛島千恵子: 自立生活を支える個別支援.OT ジャーナル 38:361-366,2004.
- Mueller H: Facilitation feeding and Prespeech,Pearson PH.(ed),Physical Therapy Services in the Developmental Disability.pp.283-305.Charles C Thomas,Illinois.
- 東 正: 新版子ども行動変容.川島書店,1987
- 辛島千恵子,野村忠雄: 重度心身障害児の抵抗運動を用いた食事訓練.作業療法 8:126-131,1989.
- 辛島千恵子,安本大樹,中農栄,他: 重度心身障害児における食事基本動作学習のステップ指導.作業療法 7:32-33,1988.
- 辛島千恵子,山下京子,山根早由里: 重症心身障害児の食べこぼしについて.作業療法 8:358-359.1989.
- 辛島千恵子: 精神遅滞児の食事.福祉機器情報 12:64-68,1989.
- 園田順一: 子どもの臨床行動療法.pp.1-60,川島書店,1978.
- 篠澤光子: 着脱の基本的ステップをベースとして.実践障害児教育 194:8-13,1989.
- 鷲田孝保: 重度心身障害児の ADL.重度心身障害研究雑誌 10:3-9,1985.
- 鷲田孝保,竹井和子: 摂食.理・作・療法 19:3-9,1985.
- 辛島千恵子: 精神遅滞児の日常姿勢指導.作業療法マニュアル,発達障害児の施設指導.日本作業療法士協会,1996, pp.24-41.
- 小林隆児.自閉症とことばの成り立ち. 京都 : ミネルヴァ書房,2004: 26-28.
- 村田久行.対人関係における他者の理解,現象学的アプローチ.東海大学健康化学部紀要 2000 ; 6 : 109-114.
- 小沢一仁.現象学的アプローチを用いた青年の自己理解のための対話的研究の模索.帝京学園短期大学紀要 1996 ; 18 : 11-21.
- 南部真理子: 虐待を受けた子どもの関係発達論
- 鯨岡 峻: 関係発達論の構築 1999 ミルルヴァ
- Anita C, Bundy J, Shelly J, et al. (土田玲子,小西紀一監訳). 感覚統合とその実践. 東京協同医書出版社, 2006: 11-12.
- 小林隆児: 自閉症の人々にみられる愛着行動とコミュニケーション発達援助について.東海大学健康化学部紀要 1998 ; 4 : 63-75.
- 小林隆児.不適応行動を起こす子どもとの関係づくりのコツ.東海大学健康化学部紀要 2000 ; 6 : 57-64.
- 鯨岡 峻.原初的コミュニケーションの諸相.京都 : ミネルヴァ書房,2003: 30-31.
- 太田篤志,土田玲子,宮島奈美恵.感覚発達チェックリスト改訂版(JSI-R)標準化に関する研究.感覚統合研究 2002 ; 9 : 45-63.
- 加藤寿宏.幼児期・学童期高機能広汎性発達障害児に対する作業療法支援.OT ジャーナル 2006 ; 40 : 1063-1068 .
- 園田順一,高山 巌.子どもの臨床行動療法.東京: 川島書店,1978: 32-34.
- 辛島千恵子,加藤哲也,安本大樹.行動分析に基づいた摂食指導.OT ジャーナル 1995; 29 : 437-442.
- 南部真理子: 虐待を受けた子どもの関係発達論
課題
第 3-5 回「脳性麻痺」
資料 1
資料 2
資料 3
資料 4
資料 5
資料 6
資料 7
- 資料 1 にて,脳性麻痺をもつ子ども(以下,対象児)の基本的情報,社会的情報,医学的
情報を理解.
- 対象児の要望は「ズボンを学校で早く脱げるようになりたい」である.
- 要望が近い将来に可能になるのか,以下の 4,5 の身体機能面での評価を実施する.
- VTR により対象児がズボンを脱いでいる場面を観察評価する(資料 2).
- 次ぎに,ズボンを早く脱ぐためには,座位バランスが良好でなくてはならないため,バラ
ンス反応を VTR にて運動学的視点にて分析評価する(資料 3,評価の正答).
- 4 と 5 の評価結果と 1 の各種情報を国際生活機能分類(以下,ICF)を利用して,ズボンを
早く脱げるようになるために作業療法で治療,支援すべき課題を整理する(資料 4 が学生
課題,資料 5 が正答).
- 資料 5 に基づいて,作業療法計画(作業療法目標,目的,手段・方法など)を立案する.
学生課題が資料 6,資料 7 が正答.
以上のプロセスが病院や施設で実施されている作業療法の評価と治療計画立案である.
一連のプロセスを 4 年の臨床実習前に本講義のなかで,系統立て学習する.
スケジュール
回 |
講義内容と学習目標 |
方法 |
1 |
統合と解釈・作業療法計画と治療理論・総論
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- 統合と解釈の時点から比較的妥当な治療理論を考えることができる
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ビデオ 講義 |
2 |
発達運動学的視点と治療
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ビデオ 講義 |
3 |
脳性麻痺
- 評価計画と評価実施
- 評価計画から評価の優先順位をつけることができる
- 実施上の方法を整理できる
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ビデオによる実習 |
4 |
脳性麻痺
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講義 |
5 |
脳性麻痺
- 統合と解釈,治療計画
- 各評価結果から統合と解釈の経験をする治療計画を考える
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講義 実習 |
6 |
知的障害
- 評価実施と治療計画
- 評価計画から評価の優先順位をつけることができる
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ビデオによる実習 |
7 |
知的障害
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ビデオによる実習 |
8 |
知的障害
- 治療計画
- 各評価結果から統合と解釈の経験をする治療計画を考える
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講義 |
9 |
広汎性発達障害
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ビデオ 講義 |
10 |
広汎性発達障害
- 統合と解釈,治療計画
- 各評価結果から統合と解釈の経験をする治療計画を考える
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講義 実習 |
11 |
重度心身障害
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ビデオ 講義 |
12 |
重度心身障害
| ビデオ 講義 |
13 |
筋ジストロフィ−症
- 評価と作業療法
- 機能低下とADLを関係づけることができる
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講義 |
14 |
各種整形疾患の評価と作業療法
- 分娩麻痺・二分脊椎・先天性四肢奇形など
- 障害の特性と身体障害での学習した評価を関連づけて評価を整理することができる
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講義 |
15 |
発達障害をもつ子どもを中心とした協働
- 地域における協働(広汎性発達障害の講義参照)と地域に開かれた生活施設における協働について
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講義 |
講義ノート
第 9,10 回
本講義ノートは,講義スケジュール「広汎性発達障害・評価と治療」の総論箇所の講義ノートである.
広汎性発達障害をもつ子どもの作業療法を地域生活での支援にスポットをあてながら ライフステージにそった作業療法を概説する. また,概説の後には,担当教員が実際に行っている作業療法の実践場面のスライド を示し,幼児期,学童期,青年期の作業療法を具体的に説明する.
注:実践場面は,個人情報の保護によりスライド提供は出来ません.
成績評価
- レポート 評価計画立案・作業療法計画の立案:40%