講師 | 越智和弘 教授 |
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開講部局 | 文学部/国際言語文化研究科 2012年度 通年 |
対象者 | 国際言語文化研究科 国際多元文化専攻 (4単位・週1回全30回) |
<前期>
ひとつの文化が幾多ある文化を凌駕し支配文明の高みにいたるには、文化の個別性を超越した「だれもが参加しうる」人間関係を作り出せることが条件となる。16 世紀にアルプス北方ヨーロッパに誕生した近代資本主義は、民主主義とならび、まさに「だれもが参加しうる」システムとなるべく今日まで発展しつづけてきた。
しかし本講義が問題にするのは、普遍を標榜しているはずの資本主義が、その誕生の起源に目を向けると、じつは普遍とあまりにかけ離れた特殊な目的を志向していたことである。資本主義を支える職業倫理が、16 世紀の宗教改革を契機とする禁欲の世俗化をとおして生まれたことは広く知られている。ただここで問題となるのは、なぜ性を極度に恐れ嫌う禁欲の倫理観が、とりわけアルプス北方のドイツ語圏を中心に強く浸透したのかという点がひとつ。いまひとつは、これほど普遍に無関心な禁欲の倫理から、いかにして「だれもが参加しうる」資本の論理が発展し得たのかである。この2点を視野に入れながら、西欧という支配文明が、じつは相反する二重構造からなる流れとして発展してきたことを明らかにする。
<後期>
なぜ 20 世紀後半期になって、資本主義最大の障碍とみなされてきた性と女性を解放する動きが活発化したのか。当時西欧の若者たちは何に対抗し、何を求めたのか。そうしたなかで、女性はどういう位置づけにあったのか。こうした時代意識の先端を自らの身体を舞台に表現した、キャロリー・シュニーマン、ヴァリー・エクスポート、レベッカ・ホルン、シンディ・シャーマンら女性アーティストの作品を紹介するなかから、文化という地理的な隔たりと、時代という歴史的な隔たりにより、今日の人びとにとっては理解が困難と化した、西欧の女性が長きにわたっておかれてきた性的体現者としての姿を浮き彫りにする。
その結果明らかにされる問題は、じつは性の解放も女性たちが主体的に求めた思い込みとは裏腹に、資本が仕組んだ戦略であった可能性である。性と女性を邪悪と罪悪の呪縛から解き放つことは、20 世紀前半期にいたるまでまともな労働力として取り込めていなかった女性と非西欧人を、男性と同等に均質化された労働力として動員するうえで、是非とも行わなければならなかった作業である。最後の障害であったセクシュアリティをセックスに還元することで、すべてを商品化する道を開いた時期として性と女性の解放運動を位置づける。
<前期>
今日西欧が,そして西欧文化だけがほぼあらゆる意味で世界に規範を提供している事実は、暗黙の了解事項でありながら、多くが表立っては語りたがらない事実でもある。とりわけ 20 世紀後半期以降ほど、西欧に発信源をもつ価値基準から地球上のだれもが逃れられないことが明らかになった時代はなかったといえるだろう。どうして西欧だけが支配文明になりえたのか。その真の秘密はどこにあるのか。そしてその起源はどこに見いだせるのか。こうした疑問への答を、近代資本主義を誕生させた倫理観にさかのぼり、現代思想、そして芸術文化の方面から光を当てて考えることが、授業の目的である。
<後期>
長らく圧倒的な普遍を標榜してきた西欧という支配文明が、じつはきわめて特殊な起源をその核心にもっていたことに、非西欧人として気づくのは容易ではなかった。その代えがたい契機となったのが、1960 年代以降に勃発した性と女性の解放運動である。なぜこの時代に性の解放が声高に叫ばれ、それに引きつづき男女平等を目指す運動が活発化したのか。こうした疑問への答を模索するなかから、やがて資本主義の中核をなす労働の倫理が、地球上のどの文化にもみられないまで性を恐れ、さらには性の体現者であるがゆえに女性を社会から排除する伝統から成り立ってきたことが判明したのである。授業は、日本をはじめ非西欧地域においてはいまだ全くといっていいほど理解されていない、性をめぐる西欧独特な性格への糸口を、60 年代以降に活躍した女性アーティストを水先案内役にして見いだすこと、そして、こうした女性たちが求めたものが拡大発展する資本主義のなかでどう位置づけられるのかを考えることを目的とする。
前期の授業では、支配文明の基本構造を明らかにする講義を進め合間に、リオタール、フーコー、ドゥルーズ、フロイト、イリガライ、ボードリヤールなど関連する思想家の基本文献から抜粋したテクストを受講者に担当発表してもらい、後期の授業では、20世紀後半期の学生運動やフェミニズムを支えた性を解放する強い意志が、性に否定的で厳格な西欧から生まれた矛盾がじつは矛盾ではなく、より大きなスケールで女性や非西洋人を資本の活動へ取り込むための戦略であったことを講義する中で、関連する思想家の基本的テクストを受講者に担当発表してもらう。
授業は、問題を解説する講義を数回おこなったあとで、テクストを受講者が分担し発表するというセットをくり返しながら進める。ただし、講義および発表の回数等は、受講者の人数に応じ適宜調整する。講義は、その大筋において、越智著『女性を消去する文化』の内容に沿ったものとなる。読解用に使用するテクストは、南部生協で製本販売する。
越智和弘『女性を消去する文化』(鳥影社)
講読用プリント製本
前期授業 a と後期授業 b を続けて履修することが望ましい。
各自が担当し発表した講読教材の内容を、授業をとおして学んだ「労働力均質化時代の性と文化」の問題に関連づけてレポートを書きなさい。
<前期>
回 | 講義内容 |
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1 | 講義方針の説明、担当者の割り当て |
2 | 「支配文明の基本構造(1)」 |
3 | 「支配文明の基本構造(2)」 |
4 | 「支配文明の基本構造(3)」 |
5 | テクスト講読 |
6 | テクスト講読 |
7 | テクスト講読 |
8 | 「支配文明の基本構造(4)」 |
9 | 「支配文明の基本構造(5)」 |
10 | 「支配文明の基本構造(6)」 |
11 | テクスト講読 |
12 | テクスト講読 |
13 | テクスト講読 |
14 | 「支配文明の基本構造(7)」 |
15 | 「支配文明の基本構造(まとめ)」 |
<後期>
回 | 講義内容 |
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1 | 講義方針の説明、担当者の割り当て |
2 | 「性の解放運動と女性アート(1)」 |
3 | 「性の解放運動と女性アート(2)」 |
4 | テクスト講読 |
5 | テクスト講読 |
6 | テクスト講読 |
7 | 「性の解放運動と女性アート(3)」 |
8 | 「性の解放運動と女性アート(4)」 |
9 | 「性の解放運動と女性アート(5)」 |
10 | テクスト講読 |
11 | テクスト講読 |
12 | テクスト講読 |
13 | 「性の解放運動と女性アート(6)」 |
14 | 「性の解放運動と女性アート(7)」 |
15 | 「性の解放運動と女性アート(まとめ)」 |
評価は、受講者に担当してもらう口頭発表を 40%、授業最終時に提出してもらうレポートを 40%。さらに、授業中の態度、積極的な発言や討論への参加度を 20%程度として加味し、総合的に評価する。
November 19, 2014