生物学各論-2011

講師東山哲也 教授
開講部局理学部/理学研究科 2011年度 前期
対象者理学部生命理学科3年 (2単位週1回全15回)

授業の内容

植物を中心に生殖、遺伝、発生の分子機構について講義を行う。特に細胞間のコミュニケーションを担うシグナリング分子に着目することで、幅広く生物界を俯瞰する。

バクテリアから高等動植物に至るまで、個々の細胞は、他の細胞とコミュニケーションをとることで、生命の営みを維持している。それは細胞の増殖の協調や、細胞の出会い、位置情報や生理情報の交換といった、様々な局面で見られる。本講義では、特に細胞間シグナリング分子が発見されてきた経緯については詳しく紹介する。最終的には、細胞間シグナリングの様々な仕組みを理解することで、現在の多細胞生物を生み出してきた進化的背景についても考察したい。

授業の工夫

最新の研究成果も交えつつ、基本的な知識や、基本的な実験手法などについて説明します。できるだけ映像を使うことで、細胞の実際の動きや様子を伝えるようにします。第一回や第二回の授業において、生物や細胞の進化についても説明することで、さまざまな生物の系統関係について体系的に理解できるようにします。

関連する科目

発生学 II、分子生理学 II

教科書

特に指定しない。講義中に資料を配布する。

参考書

「植物の軸と情報」特定領域研究班編『植物の生存戦略「じっとしているという知恵」に学ぶ』朝日新聞社、2007 など。

スケジュール

細胞学や分子生物学の基本的な内容を説明しながら、講義を進める。

講義内容
1 細胞間シグナリング機構の概説;リガンドとレセプター
2 性・生殖の進化、植物の生殖と様々な生物の生殖との比較
3
4 核とオルガネラの間のシグナリング、母性遺伝
5 植物の自己非自己の認識
6 花粉管ガイダンスの細胞間シグナリング
7
8
9
10 花粉管到達後の複雑な細胞間シグナリング
11 受精の鍵と鍵穴、ユイノウ遺伝子とは
12 受精とエピジェネティクス
13 花器官の発生とフロリゲン
14 根粒の発生と細胞間シグナリング

講義ノート

第 7 回 : 花粉管のガイダンス(2)

課題

問. アブラナの自家不和合性における細胞間シグナリングに関連して、以下の問いに答えよ。

  1. 自他認識は、雄側因子 SP11/SCR(リガンド)と雌側因子 SRK(レセプター)により行われる。SP11/SCR と SRK は、ともに複対立遺伝子であり、複数のアリルをもつ。自己の SP11/SCR は、特異的に自己の SRK と結合する。なぜアブラナはつねに自己の SP11/SCR 遺伝子に対応した SRK 遺伝子を持つのか、S 遺伝子座という言葉を使って説明せよ。
  2. 雌側因子である SRK は、細胞膜に局在する受容体セリントレオニンキナーゼである。一般に、レセプターが細胞膜表面にある場合と、細胞内(サイトゾル、小胞、核など)にある場合で、リガンドにどのような違いがあるか述べよ。
  3. アブラナが配偶体型ではなく胞子体型の自家不和合性を示す理由を述べよ。

問. 以下の問いに答えよ。

  1. 雌性配偶体による花粉管ガイダンスは、花粉管が雌蕊のどの位置を伸長している時に働くか説明せよ。
  2. それはどのような実験からわかるか。
  3. 雌性配偶体が、拡散性の花粉管ガイダンス分子、いわゆる「花粉管誘引物質」を分泌することは、どのような実験から示唆されたか。
  4. ある物質が花粉管誘引物質であることを証明するためには、どのような実験が必要か答えよ。
  5. 助細胞による花粉管の誘引に関わる突然変異体が、これまで順遺伝学的に同定されたことはない。どのような理由が考えられるか説明せよ。

問. レポーター遺伝子に関して、以下の問いに答えよ。

  1. (1)ZmEA1::GFP と(2)ZmEA1::ZmEA1:GFP を導入したトウモロコシでは、それぞれどのような蛍光シグナルが観察されるか詳しく説明せよ。
  2. (1)ZmEA1::ZmEA1:GFP と(2)ZmEA1:: GFP: ZmEA1 では、局在が大きく異なると予想される。理由を説明せよ。
  3. (1)ZmEA1::ZmEA1:GFP をトウモロコシに導入した場合と、(2)35S::ZmEA1:GFP をタマネギの表皮細胞に導入した場合で、局在が異なった。理由をできる限り考察せよ。

成績評価

出席、期末試験


投稿日

April 12, 2020