人間発達科学-I-2006

講師牧野篤 教授
開講部局教養教育院 2006年度
対象者教育学部以外の学部 (2単位週1回全15回)

授業の工夫

大学の授業は、何か一つの決まった知識を教える場ではなくて、さまざまな見方があることを示しながら、皆さん一人ひとりが自分の観点を鍛え上げていく訓練をする場 だと考えています。 とくに、人間そのものを扱いながら、その人間に一方的でお節介なアプローチをしようとする教育学という学問には、こうすれば、こうなる、という明快な解はありません。 その意味で、この入門の授業では、私という授業者から一つの観点を示し、それについて皆さんがどのように考えるのかをつねに問いかけをしたいと思います。 自分だったらどう思うのか、どう考えるのか、を問いかけながら、授業の中に引き込もうという戦術です。

本授業の目的およびねらい

日本の社会構造が大きく転換し、就職を含めて、これまで私たちが自明としてきた社会の あり方が大きく崩れ始めている。このような中、人々は自分らしく生きることを求めて、 彷徨しているように見える。そして、それはまた、学校教育を中心とした人材育成・国民 形成のシステムから、生涯にわたって学習し続けることで、自らの潜在力を開発し続ける ことを求める社会へと、人々の学びのあり方の大きな展開をもたらしている。この講義で は、これまでの学校教育を構築していた原理と人間観を社会・歴史的に考察しつつ、今、 新たな状況の中で、人々の自我像はどうなっているのかを考えることを目的とする。

履修条件あるいは関連する科目等

履修条件:意欲的に教育と社会との関わりを学ぼうとする人、自分の生き方を自分で考え抜こうとしている人。

授業内容

この授業は大きく次の2つの部分から構成される。1つは、学校教育制度とくに皆さんが 通ってきた近代国民教育制度としての学校の成り立ちとそれが持つ人間観を、社会・歴史 的に考察すること、2つは、学校を通して形成されてきた人格のあり方とその崩れについ て考察すること、である。その上で、今日の人格障害などの問題を取り込みながら、新た な社会における自我像を考える。講義はおおむね、以下の内容にしたがって行われる。

1. 近代学校の原理

  1. 学校を持つ社会と学校の誕生
  2. 分業の形成と近代的人格
  3. 学歴社会と立身出世主義
  4. パノプティコン(一望監視社会)と社会化
  5. 平等な競争という幻想
  6. 学校は何を選抜してきたのか

2. 子供の目線に立ってみる

  1. 子どもの誕生
  2. 子どもの自我形成と対人関係
  3. 不登校のメカニズム
  4. 共依存という関係
  5. 関係性としての自分
  6. 遊びの堕落と病気

3. <解離>という新しいあり方

  1. <解離>・人格障害と社会の変化
  2. データベース型自我と管理社会
  3. <コトバ>とわたしの存在の根拠

以上の内容を、おおむね、1回1時限ほどで講述する。

教科書

牧野篤『〈わたし〉の再構築と社会・生涯教育』(大学教育出版、2005年)

参考書

授業で適宜紹介する。

注意事項

授業での問いかけを受け止めて、自分で考える習慣をつけてほしい。

スケジュール

講義内容
1 1. 近代学校の原理(1)
− 学校を持つ社会と学校の誕生
2 1. 近代学校の原理(2)
− 分業の形成と近代的人格
3 1. 近代学校の原理(3)
− 学歴社会と立身出世主義
4 1. 近代学校の原理(4)
− パノプティコン(一望監視社会)と社会化
5 1. 近代学校の原理(5)
− 平等な競争という幻想
6 1. 近代学校の原理(6)
− 学校は何を選抜してきたのか
7 2. 子どもの目線に立ってみる(1)
− 子どもの誕生
8 2. 子どもの目線に立ってみる(2)
− 子どもの自我形成と対人関係
9 2. 子どもの目線に立ってみる(3)
− 不登校のメカニズム
10 2. 子どもの目線に立ってみる(4)
− 共依存という関係
11 2. 子どもの目線に立ってみる(5)
− 関係性としての自分
12 2. 子どもの目線に立ってみる(6)
− 遊びの堕落と病気
13 3. <解離>という新しいあり方(1)
− <解離>・人格障害と社会の変化
14 3. <解離>という新しいあり方(2)
− データベース型自我と管理社会
15 3. <解離>という新しいあり方(3)
− <コトバ>とわたしの存在の根拠

講義ノート

人間発達科学 I(講義ノート)

成績評価

授業時間中のレポートによる。

参考書

牧野篤『〈わたし〉の再構築と社会・生涯教育』(大学教育出版、2005年)

網野善彦『日本の歴史をよみなおす』(ちくま学芸文庫、2005年)

石原千秋『国語教科書の思想』(ちくま新書、2005年)

今村仁司『近代の思想構造—世界像・時間意識・労働』(人文書院、1999年)

今村仁司『群衆—モンスターの誕生』(ちくま新書、1996年)

上野千鶴子『〈私〉探しゲーム—欲望私民社会論』(ちくま学芸文庫、1992年)

小熊英二『単一民族神話の起源—「日本人」の自画像の系譜』(新曜社、1995年)

小倉紀蔵『おれちん—現代的唯我独尊のかたち』(朝日新書、2006年)

苅谷剛彦『大衆教育社会のゆくえ—学歴主義と平等神話の戦後史』(中公新書、1995年)

苅谷剛彦『階層化日本と教育危機—不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』(有信堂、2001年)

斎藤環『文脈病—ラカン・ベイトソン・マトゥラーナ』(青土社、2001年)

斎藤環『心理学化する社会—なぜ、トラウマと癒しが求められるのか』(PHPエディターズグループ、2003年)

斎藤環『解離のポップ・スキル』(勁草書房、2004年)

桜井哲夫『「近代」の意味—制度としての学校・工場』(日本放送出版協会、1984年)

澤口俊之『幼児教育と脳』(文春新書、1999年)

下條信輔『まなざしの誕生—赤ちゃん学革命』(新曜社、1988年)

関廣野『みんなのための教育改革—教育基本法からの再出発』(太郎次郎社、2000年)

千石保『「まじめ」の崩壊—平成日本の若者たち』(サイマル出版会、1991年)

高橋祥友『中高年自殺—その実態と予防のために』(ちくま新書、2003年)

宮台真司『終わりなき日常を生きろ—オウム完全克服マニュアル』(筑摩書房、1995年)

宮台真司『まぼろしの郊外—成熟社会を生きる若者たちの行方』(朝日新聞社、1997年)

宮台真司『制服少女たちの選択』(講談社、1994年)

柳治男『〈学級〉の歴史学—自明視された空間を疑う』(講談社、2005年)

山極寿一『ゴリラ』(東京大学出版会、2005年)

山極寿一『父という余分なもの—サルに探る文明の起源』(新書館、1997年)

山口創『子供の「脳」は肌にある』(光文社文庫、2004年)

山下恒男『反発達論—抑圧の人間学からの解放』(現代書館、1977年)

J.A.L シング著、中野善達・清水知子訳『狼に育てられた子—アマラとカマラの養育日記』(福村書店、1977年)

J.M.G イタール著、中野善達・松田清訳『新訳 アヴェロンの野生児—ヴィクトールの発達と教育』(福村書店、1979年)

S.ボウルズ・H.ギンタス著、宇沢弘文訳『アメリカ資本主義と学校教育—教育改革と経済制度の矛盾』(1)(2)(岩波書店、1986年、1987年)

ミシェル・フーコー著、田村俶訳『監獄の誕生—監視と処罰』(新潮社、1977年)


投稿日

May 10, 2020