創薬科学研究科

創薬科学研究科の教育

創薬科学は、「薬学や医学、化学、生物学及び工学などの研究開発領域において、薬剤の発見や設計等のプロセスを経て、新たな医薬品が製品となるまでの一連の過程に関する総合的な学問領域」です。

我が国では 6 年制の薬学部教育が施行され、高度な医療薬学を実践する人材育成が強化されました。その一方で、高度な能力を有した次世代の創薬人材の育成のためには、創薬科学の研究力そのものに改革をもたらす人材もまた必須です。特に、近年、新薬の創出は世界的に縮小傾向にあります。人類全体の健康的な生活と幸福な未来を守るためには、新薬を創出するための学問領域を大胆に再構築し、新たな視点から創薬研究を推進できる「多分野の学術基盤を融合した研究開発力をもつ人材の育成」が必要で、そのための教育・研究基盤の形成が極めて重要です。

名古屋大学大学院創薬科学研究科は、従来の薬学固有の領域に加え、医薬品の設計合成に関わる有機合成化学、疾病や薬効解析の基礎となる生物科学、タンパク質の高次構造や医薬品との相互作用を解析する分子構造学などの先端的な研究を推進します。最先端の研究活動を通じて、多くの基礎学術分野に関する高い能力をもち、かつ、従来の単一の専門領域からの視点だけではなく、幅広い視野から創薬研究に改革をもたらす、先導的な研究者を育成します。

これまで、名古屋大学では理・工・農学部の理系学部を舞台に、伝統的に創薬に関わる基盤研究力を持つ人材育成を行ってきました。特に、天然物化学、有機合成化学及び、生物科学で世界に伍して最先端の輝かしい研究成果を上げてきた歴史があります。本研究科は、名古屋大学の研究教育の活力である自由闊達さを継承しながら、本学の理工農それぞれの学術分野の融合と、その研究基礎力と連携の実績を十分に活用し、教育理念として「多分野融合教育による次世代を先導する創薬基盤研究者を輩出すること」を掲げています。

教育目標

  1. 創薬科学研究者としての基盤力
  2. 実践的融合力
  3. 高度な専門力

部局長インタビュー

創薬科学研究科 廣明秀一 教授

創薬科学研究科の廣明秀一教授に 5 つの質問に答えて頂きました。


  1. 創薬科学研究科の強み(醍醐味)を教えてください。

創薬科学研究科は 2012 年4月に開設された、学部をもたない、大学院だけの研究科です。

創薬科学研究科の一番の強みは2つあります。1つめは、有機化学と生命科学の融合教育研究を推進するための、ベストな体制と環境が整っていることです。2つ目は、基礎研究から実用的・応用的な研究まで、創薬や再生医療というキーワードのもと、幅広い研究ができることです。

この2つの点をもう少し詳しく説明します。まず融合教育研究ですが、もともと名古屋大学に所属していた理学部・工学部・農学部から教員が集まり、そこに外部から薬学も含めた別の学術的背景をもった教員が加わって、この創薬科学研究科が発足しました。いろいろ異なるバックグラウンドをもった先生方が、既存の薬学ではなく新しい薬をつくるための新しい学問のために集まってきた、という意気込みが、特徴的な融合教育カリキュラムに反映されています。それから基礎と応用どちらも学べる、という特徴についてです。創薬科学研究科の修士論文や博士論文の発表会では、ものすごく基礎的な研究をしても「それがどんな役に立ちますか?」みたいな質問がくることはありません。またどんなに出口に近い研究を発表しても、「そういう研究は企業でやればよくて大学でやる必要はないのでは」みたいな意地悪なコメントは来ません。私たちは薬を創りたい。けれどもそれはアカデミアの力だけでは決してできない。そのことを私たちは良く知っているからです。


  1. 創薬科学研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育って欲しいですか?

2つあります。一つはともかく研究に集中して、誰よりもすごい研究をするんだ、という意気込みで大学院生活に取り組んで欲しいです。その時に注意して欲しいのが「研究」と「研究ごっこ」のちがいです。他の研究者と議論して、おかしなところを厳しく指摘してもらい、常に改良を目指す。研究を進めるにはそういう、第三者からの指摘を謙虚に受け入れる必要があります。これが二つ目のポイントです。科学の本質はディスカッションだ、とよく言われますが、それは、他の研究者の視点を借りて客観的に進めないと、すぐにもひとりよがりな「研究ごっこ」に陥ってしまうからです。だから、他の人(学生・教員、および学外の研究者)とのディスカッションを是非楽しんでください。

それらもすべて引っくるめて、科学を楽しむ、エンジョイサイエンス、を学生時代から体験していただきたいです。


  1. 創薬科学研究科のビジョンを教えてください。

新型コロナウイルスが世界的に流行しています。いまのところ、ワクチンは実用化のレベルに達して、接種も進んでいます。日本でもこれから進むでしょう。ですが、一度かかってしまって重症化した場合、それを治療する薬は現時点ではまだできていません。なぜなら、いままで誰もこのウイルスに対する医薬品の開発を真剣に研究してこなかったからです。このように、薬というのはいつ必要になるか分からないけれども、必要になったなら超特急で研究しなければならない、という性質を持っています。名古屋大学の基礎から応用まですべての学問の力を結集して、薬を創る、そして薬を創ることのできる学生を育てる、それが、本研究科のビジョンです。


  1. 廣明先生ご自身が学生であったとき、印象的な授業はありましたか?

僕が学生時代に印象を受けた講義は、物理化学の講義です。僕は名古屋大学ではない大学の薬学部の出身で、有機化学や分析化学の講義を多く受講しました。ですが、その中で一番退屈で、いちばん期末テストで良い点を取りにくい講義が物理化学でした。ギブスエネルギーとかエンタルピーとかエントロピーとか聞いたことはありますか?熱とは何か、って考えたことはありますか?

ところがです。大学院を卒業して、しばらく企業で働いていたのですが、製薬企業で薬をつくる研究をする上で、一番しっかり理解していなければならない学問が、実は物理化学だったのです。薬が標的に強く結合するのか、弱く結合するのか、その強さをどうやって分析するのか、実はそれが物理化学のなかの熱力学だったのです。卒業しても教科書を捨てないで良かった、とその時思いました。皆さんは、ですから、学部の授業では、是非、物理化学や熱力学のような退屈だけれども重要な科目をしっかり学んでください。


  1. 創薬科学研究科への入学希望者に向けてメッセージをお願いします。

名古屋大学の創薬科学研究科は、学部を持たない大学院のみの独立研究科で、前期課程(修士)2 年と後期課程(博士)3 年からなります。入学するには大学(学部)を卒業する必要があります。他大学の「薬学部・薬学研究科」には薬剤師養成のためのコース(学部 6 年)とその大学院(4 年)が設置されていますが、名古屋大学にそのコースはなく、従って薬剤師の養成は行っていません。

名古屋大学が「創薬科学研究科」を設置した大きな目的は、多様な学問分野を集め融合させること(多分野融合)により既存の「薬学部・薬学研究科」とは異なる新しい創薬の展開ができると考えたからです。薬を創るには、総合力が必要です。従って、名古屋大学の創薬科学研究科を目指す学生さんたちには、自分の得意分野を身につけて入学をして欲しいと願います。他方、創薬科学研究科に入学する学生さんには、学部時代に薬学の授業を受けたことがない人も多くいます。でも心配はいりません。薬理学・薬剤学などの授業が大学院にあり創薬の基礎を学ぶことができます。

(令和 3 年 4 月 26 日)


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