宇宙物理学γ-(宇宙論)-2006

講師松原隆彦 准教授
開講部局理学部/理学研究科 2006年度 後期
対象者理学研究科、素粒子宇宙物理学専攻および物質理学専攻 (1.5単位週1回全7回)

講義の目的

宇宙論は、この宇宙全体がどのようにはじまり、どのように進化するのか、そもそも宇宙とはなにものなのかを明らかにしようとする研究分野である。最近のめざましい観測の進展を背景として、宇宙論の研究は大きく発展している。本講義では宇宙論の最近のトピックのいくつかに焦点を当てて紹介する。

授業の工夫

現代宇宙論は物理学の総合的な応用の場としての側面があります。物理の学生 が学部で習う基礎的な科目である力学や電磁気学、量子力学、統計力学はもち ろん、さらに進んだ科目である一般相対性理論、非平衡統計力学、場の理論な ど現代物理学の手法を駆使して宇宙の進化を理論的に研究し、さらにそれを最 新の宇宙観測と組み合わせて事実と突き合わせながら宇宙全体の本質を明らか にしていくことが現代の宇宙論の本質です。

この講義ではこのような現代宇宙論の本質を具体的に紹介するのが目的です。 そこで用いられている手法を適度に詳しく紹介しながら、根底に流れている物 理的な描像を解説しつつ講義するように工夫します。ある程度詳しい式を解説 しますが、板書をノートに写す労力を軽減するため、毎回重要な式をノートに まとめて配布します。理論を専攻する者など、詳しく理解したい受講者は、こ のノートの式を講義内容をもとに導いてみることにより、より深い理解が得ら れます。また、おおざっぱな概念を知りたい受講者は、細かな式を書き写すこ となく、講義の内容に集中できます。

履修条件あるいは関連する科目等

一般相対論の知識を前提とする。また、前期の開講科目である「観測的宇宙論」 の講義を履修していることが強く望まれる。

授業内容

  1. 宇宙論の基礎
    宇宙論の基礎となる一様等方宇宙についてのポイントをおさらいする。ロバートソン・ウォーカー計量からフリードマン方程式を導き、宇宙論パラメータを定義する。最近大きなトピックとなっているダークエネルギーの観点を強調しながら宇宙の大局的なふるまいについて述べる。さらに宇宙の赤方偏移といくつかの宇宙論的距離の関係をおさらいし、宇宙論パラメータの古典的決定法について述べる。
  1. 線形摂動論
    現代宇宙論で重要な概念の宇宙のゆらぎを取り扱うための理論を解説する。はじめに宇宙のゆらぎを一般相対論に基づいて取り扱う線形摂動論を説明する。一般相対論におけるゲージ自由度について述べてから、具体的に線形アインシュタイン方程式を導く。さらに多粒子系の取り扱いに必須となる一般相対論的ボルツマン方程式の線形近似を解説する。
  1. 一様等方宇宙におけるゆらぎの生成と進化
    線形摂動論を応用し、実際の宇宙でのゆらぎの進化を明らかにする。はじめにインフレーション理論によるゆらぎの生成について概説する。つぎに宇宙の進化におけるゆらぎの成長過程を調べる。ここではおおまかな傾向を掴むため、近似的な取り扱いによって説明する。宇宙の構造形成において重要な概念である遷移関数を導入し、そのふるまいを導く。また、光子とバリオンの相互作用による重要な効果を説明する。
  1. 摂動宇宙の観測量
    宇宙のゆらぎに関する観測量について概説する。とくに宇宙の広域的な構造を 調べる手段として、宇宙背景放射のゆらぎと宇宙大規模構造の観測がある。 これらの観測量が理論的なゆらぎの成長とどのように結び付いているのかを説 明する。

教科書

なし

その他

この講義は宇宙物理学 α・宇宙物理学 β・宇宙物理学 δ のいずれか1つと併せてB類(3単位)として認められる。単独では単位として認められない。前年度まで、あるいは翌年度以降に取得した科目と併せても単位として認められるが、同じ科目名同士の場合は、年度・担当教員が異なっていても認められないので注意すること。

スケジュール

講義内容
1 ・ ロバートソン・ウォーカー計量のアインシュタイン方程式
・ フリードマン方程式の解法
・ 多成分系の場合
・ 宇宙論パラメータ
2 ・ 宇宙の大局的ふるまい
・ 赤方偏移と宇宙論的距離のまとめ
・ 宇宙論パラメータの「古典的」決定法
3 ・ ロバートソン・ウォーカー計量における線形摂動
・ ゲージ自由度とゲージ固定
・ 線形アインシュタイン方程式
4 ・ 線形ボルツマン方程式
・ インフレーション理論におけるゆらぎの生成
5 ・ 単成分近似におけるゆらぎの成長
・ パワースペクトルと遷移関数
・ 光子とバリオンの相互作用効果
・ 再結合後のゆらぎの成長
6 ・ 宇宙背景放射ゆらぎ
7 ・ 銀河の空間分布
・ 弱重力レンズ場

講義ノート

講義と併せて使用するため、重要な式をまとめたノートを配布した。 そのファイルをここに載せる。

第 1 回

第 2 回

第 3 回

第 4 回

第 5 回

第 6 回

第 7 回

付録

課題

レポート 1

レポート 2

参考資料

  1. 「宇宙論入門」、 バーバラ・ライデン(牧野 伸義 訳、ピアソンエデュケー ション) 2003

  2. 「場の古典論」、ランダウ,リフシッツ(恒藤敏彦,広重徹 訳、東京図書)

  3. 「観測的宇宙論」、池内 了(東京大学出版会)

  4. 「一般相対論的宇宙論」、成相秀一・冨田憲二 (裳華房,物理学選書19)

  5. 「相対論的宇宙論」、小玉英雄 (丸善,パリティ物理学コース)

  6. "Gravitation and Cosmology", S. Weinberg (John Wiley and Sons, Inc.) 1972

  7. "Cosmological Inflation and Large-Scale Structure", A. R. Liddle, D. H. Lyth (Cambridge Unviersity Press) 2000

  8. "Theoretical Astrophysics, Volume III: Galaxies and Cosmology", T. Padmanabhan (Cambridge University Press) 2002

  9. "Modern Cosmology", S. Dodelson (Academic Press) 2003

  10. "Physical Foundations of Cosmology", V. Mukhanov (Cambridge Unviersity Press) 2005


顔写真の背景に Croman 氏の撮影した写真を使わせていただきました。

Russell Croman Astrophotography

http://www.rc-astro.com

成績評価

講義期間中 2 回のレポートを課し、その採点結果により評価する。


投稿日

March 17, 2020