ヴィレム・フルッサーが残してくれたもの

2016年度 退職記念講義

講師越智和弘 教授
開講部局文学部/人文学研究科
日時2017/2/7 14:45-16:30
場所文系総合館カンファレンスホール
講師越智和弘 教授
開講部局文学部/人文学研究科
日時2017/2/7 14:45-16:30
場所文系総合館カンファレンスホール

大海原の孤島にいる夢

39 年前に右も左も分からぬ名古屋に赴任して以来、名古屋大学にも 29 年在職させてもらいました。独文研究の日本的独りよがりを若気の至りで批判し、突っ張り者として類例のない研究を貫き通せたのは、名古屋大学の自由な学風のおかげと、心底感謝しています。

ただ歩んだ道をふり返り、まわりを見回せば、国際的な行き来こそ容易になったものの、文学研究も大学や社会の行く末も、文字思考の限界から生まれた数値成果主義に振り回され、楽観できるものとはいえません。人工知能が人間の存在価値を支えてきた労働を剥奪する時代の到来が確実に予想されるなか、〈人間らしさ〉とは何によって保証されるのか。

そうした不安への救いを提供してくれたのが、ヴィレム ・ フルッサーという希有な人文学者でした。とりわけ定年前の 6 年間を、ドイツに通いフルッサー研究に費やせたことは、至福の時でした。かれは、数値という新たな神に人類が隷属させられる大海原で、孤島の灯台のごとく、愛と死の記憶を語り継ぐ勇気を教えてくれました。かつて、すべてを破壊し尽くすゲルマン人の通り道が、ある修道院からわずか数十キロずれていただけの偶然から、焼失を免れたルクレティウスの『物の本質について』によって、西欧近代の幕が切って落とされた事実を思えば、人間だけがもつ、記憶の継承という、エントロピーに抵抗する能力を実践する拠点として、大学の果たすべき意義を改めて痛感する次第です。

講師紹介

越智 和弘(おち・かずひろ)大学院国際言語文化研究科 国際多元文化専攻 教授

学歴

  • 1974 年 東京外国語大学 外国語学部 ドイツ語学科 卒業
  • 1978 年 東京外国語大学大学院 外国語学研究科 ゲルマン系言語 修士課程 修了

職歴

  • 大同工業大学・講師 , 1978 年 04 月 ~ 1980 年 03 月
  • 名古屋市立大学教養部・講師/助教授 , 1980 年 04 月 ~ 1988 年 03 月
  • 名古屋大学総合言語センター・助教授/言語文化部・助教授/教授/大学院国際言語文化研究科/教授 , 1988 年 04 月

取得学位

  • 文学博士 , 名古屋大学 , 論文 , 2005 年 08 月
  • 文学修士 , 東京外国語大学 , 課程 , 1978 年 03 月

研究分野を表すキーワード

西欧文化起源論、資本主義の精神と禁欲主義、ドイツロマン主義における女性的イメージの脱肉体化、快楽敵視と女性恐怖、プロテスタンティズムとドイツ神秘主義

所属学会

  • 日本独文学会 日本独文学会賞審査委員 , 2006 年 04 月 ~ 2008 年 03 月 日本国
  • 表象文化論学会 日本国
  • 日本ラカン協会 日本国
  • 日本比較文学会 日本国
  • 世界文学会 日本国

講義資料

ヴィレム・フルッサが残してくれたもの


投稿日

May 16, 2020