国際開発研究科

国際開発研究科について

名古屋大学大学院国際開発研究科(the Graduate School of International Development: GSID)は 1991 年に創設された日本初の国際開発分野の専門大学院です。国際開発協力専攻の1専攻体制の下、博士前期課程および博士後期課程の教育プログラムを提供しています。

GSIDは、2021年に創設30周年を迎えましたが、日本の国際開発分野のパイオニア大学院として、研究と教育を通じて人々の幸福の実現に貢献するという名古屋大学の理念と「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」を2030年までに達成するという国際社会が約束したコミットメントの実現にむけて、多彩な研究と教育活動を展開しています。2022年2月には創設30周年記念事業を開催し、新型コロナウィルス感染症のためオンライン開催となったものの、世界40か国以上から約400名の参加者を得て、“Development Research and Teaching in the Post COVID-19 Era: Challenges and Opportunities”をテーマに国際シンポジウムが開催されました。

過去30年余りの間に、開発途上国の中には、特にアジアを中心に、著しい経済成長を遂げた国々も数多くあります。グローバリゼーションが進展し、開発途上国に対する貿易や投資は著しく増大し、数多くの途上国の生産者や企業がグローバル・バリュー・チェーンに参画し、高い競争力を持つようになりました。他方、依然として、貧困や不平等、栄養不良、健康問題、質の低い教育、増加する自然災害や気候変動、地域紛争や戦争、暴力やテロ、脆弱なガバナンス、雇用や産業開発の停滞など、さまざまな課題が横たわっています。特に、3年以上にわたる新型コロナウィルス感染症パンデミックは、世界中の人々や社会に深刻な経済的・社会的影響をもたらしました。多様で複雑な国際社会の諸課題の解決のため、国際開発協力に携わるプロフェッショナル人材の役割はますます重要になっています。

GSIDでは、グローバル化する世界が直面する諸課題の実態と解決策を研究するとともに、国際機関・各国政府・市民社会等による政策立案・実施課程に貢献することを通して、持続可能なより良い社会を実現することをミッションに掲げています。課題解決の方策には、技術的なアプローチだけでは不十分であり、社会科学の理論に立脚しつつ、政策的枠組みを理解し、変革する視点が必要です。また、複雑化する現代社会において、こうした課題を理解し、解決策を提示するには、単一の学問分野からのアプローチでは不十分であり、学際的な視点が必要です。

そこで、国際開発研究科は、世界の研究機関や政策立案・実施機関と連携し、社会科学分野における学際的な研究教育を通じて、グローバル社会が抱える課題解決の方策を模索できる「勇気ある知識人」の育成をめざします。具体的な目標は以下の通りです。

  1. 国際社会・各国政府・市民が直面する多様な開発課題を、社会科学の理論と手法を用いて、地域の文脈に根ざした実証分析を行い、グローバルな視点で政策立案とその実施過程に貢献する研究を進めます。

  2. それぞれの国や地域の実情を踏まえ、国際社会と協力して、各国の国づくりや地域づくりに貢献する高度専門職人材を育成します。

  3. 世界各国の政府・大学、国際機関と研究・教育を通じたネットワークを拡大し、地球レベルで持続可能な開発と公正な社会の実現に貢献します。

本研究科の博士前期課程では、国際開発協力に従事する高度なプロフェッショナルを育成するために、(1)「経済開発政策・マネジメント」プログラム、(2)「教育と人材開発」プログラム、(3)「平和とガバナンス」プログラム、(4)「包摂的な社会と国家」プログラム、(5)「貧困と社会政策」プログラムの5つの専門教育プログラムを提供しています。さらに、社会人向けに1年制の「グローバル企業人材育成特別課程」と、将来国際機関で勤務することをめざす学生向けに「グローバル・リーダー・キャリア・コース(Global Leader Career Course: GLCC) を開講しています。

GSIDでは、すべての授業は英語で行われており、在学生の約7割が外国人留学生です。これまでに、100か国から2300名以上が本研究科で博士前期課程もしくは博士後期課程を修了し、修士号・博士号を取得しました。彼らの多くは学位取得後、母国に帰国し、政府、国際機関、国際NGOsなどで中核人材として活躍しています。

詳細は、以下のウェブサイトをご参照ください:

https://www4.gsid.nagoya-u.ac.jp/

部局長インタビュー

国際開発研究科長 島田弦 教授

国際開発研究科長の島田弦教授に 5 つの質問に答えて頂きました。

1. 国際開発研究科の強み(醍醐味)を教えてください。

国際開発研究科は、1991年に設立された日本で最初の国際開発協力分野の専門大学院です。以来、30年以上にわたり、開発途上国が経済社会開発を進めるうえで直面する貧困、不平等、紛争といった発展を阻害するさまざまな課題について分析し、これら課題の解決に向けた戦略の立案に資する政策研究と専門教育において、国内外で中核的な役割を果たしてまいりました。すべての授業は英語で行われ、在学生の約80%は留学生であり、日本でトップレベルの国際的な学修環境を提供しています。

2. 国際開発研究科の学生に大学生活を通じてどんな風に育って欲しいですか。

今言ったように、国際開発研究科では80%が留学生です。これまでに日本を含む100カ国以上の国からの学生がここで学びました。修了生約2400名のうち、留学生は約1400名となっています。現在でも、学生の出身国は45カ国であり、198名の在籍学生中168名が海外出身者です。授業だけでなく、日常のクラスメイトとのコミュニケーションもすべて英語を中心とする外国語で行わなければならないことは、特に日本人にとってはストレスを感じ、不安になるかも知れません。しかし、異文化・多文化交流はこれからの世界を生きる学生にとって、避けられないことです。国際開発研究科というのは、まさにそのような場所であり、学生にはそのようなストレスと不安を乗り越えることを、いち早く経験してほしいです。

さらに、国際開発協力というのは、私たちとは経済的にも、社会的にも、文化的にも非常に異なる環境におかれた人々の抱える問題に取り組むことです。その点からは、国や言語が異なるとはいえ、学生同士というのはやはり同一性の高い集団です。その集団内だけの経験で満足せずに、さらに新しい場所や経験にチャレンジしてもらえればと思います。

3. 国際開発研究科のビジョンを教えてください

グローバル化する世界が直面する諸問題の実態と解決策を研究するとともに、国際機関・各国政府・市民社会等による政策立案・実施過程に貢献することを通じて、持続可能なより良い社会を実現することです。課題解決の方策には技術的なアプローチだけでは不十分であり、社会科学の理論に立脚しつつ、政策的枠組みを理解し、変革する視点が必要です。国際開発研究科は、世界の研究機関や政策立案・実施機関と連携し、社会科学分野における学際的な研究教育を通じて、グローバル社会が抱える課題解決の方策を模索できる「勇気ある知識人」の育成をめざします。具体的な目標は以下の通りです。

  1. 国際社会・各国政府・市民が直面する多様な開発課題を、社会科学の理論と手法を用いて、地域の文脈に根ざした実証分析を行い、グローバルな視点で政策立案とその実施過程に貢献する研究を進めます。
  2. それぞれの国や地域の実情を踏まえ、国際社会と協力して、各国の国づくりや地域づくりに貢献する高度専門職人材を育成します。
  3. 世界各国の政府・大学、国際機関と研究・教育を通じたネットワークを拡大し、地球レベルで持続可能な開発と公正な社会の実現に貢献します。

4. 島田先生ご自身が学生であったとき、印象的な授業はありましたか?

私は、国際開発研究科が創設されてから3年目の大学院生として、修士課程に入学しました。とくに私の専攻は設立2年目と言うことで、教育を含め、さまざまなことが手探りで、実験的だったと感じました。今でも、国際開発研究科の看板授業として続いている「海外実地研修」は、テーマ、訪問先、質問事項、スケジュールなどの計画・実施が参加学生に委ねられました。一から途上国における研究調査プロジェクトを作ることを、大学院に入ってすぐに経験できたのは、とても価値のあるものだったと思っています。私の時は、実に1ヶ月もタイに滞在しました。今は、カリキュラムの都合などから2週間になっていますが、基本的な形は変わっていません。

特定の科目というわけではないですが、国際開発研究科は、経済、教育、社会学、法学、政治学、歴史学など多くの研究分野から教員が集まっていましたので、異なった科目で、一つの事象について多様な見方を学べました。例えば、私は法学部を卒業していましたが、経済学や歴史学の授業で学ぶ社会の見方はとても新鮮でした。

5. 国際開発研究科への入学希望者に向けてメッセージをお願いします。

現在、私たちは果たして国際開発協力という目的が本当に達成可能なのかという試練に直面しています。ウクライナやパレスチナで見られるような戦闘と破壊に対して国際社会は一致した行動を取ることができていません。国際社会における富と資源の配分は、ますます不平等になっていますが、各国政府は「自国第一主義」に傾倒し続けています。人権と寛容に対して、統治責任者があからさまに批判・嘲笑することすら珍しいことではなく、結果として、社会的・経済的な少数者は成長と発展の成果からますます疎外されています。

当然、世界の直面するさまざまな課題に対して、万能の対策も、正しい答えもあるわけではありません。しかし、我々は、何が実際におきているのか、そこで考えられる因果関係には何がありうるのか、さまざまな方法で、できるだけ正確に知る必要があります。また、その知見を共有し、何ができるのか、どのような成果が得られるのかを、多くの人々と考えていく必要があります。

このような、目標に共感してくれる方たちが、学生として入学してくることを強く望んでいます。

(令和6年6月20日)


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