講師 | 豊國伸哉 教授 |
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開講部局 | 医学部/医学系研究科 2015年度 前期 |
対象者 | 医学部医学科3年生、3年次編入生 (8単位・1回2時限全41回) |
病理学はヒトの病気の成り立ちを学ぶ「基礎と臨床の架け橋」となるコースであり、総論・各論と症例検討より構成される。
医学部医学科の「病因と病態学」は、医師を目指す学生が、ヒトの疾患に関わる、ありとあらゆる概念を初めて学ぶ場である。「病理学」ともよばれている。人体のマクロ・ミクロレベルにおける正常構造を学習し、熟知していることを前提としている。講義と実習からなる。学習内容が極めて多様かつ多量となるため、講義では医学生が必ず知っていなければならない重要なコンセプトを中心に、各分野の第一線の講師が概説する。実習においては実際の疾患を肉眼や顕微鏡でつぶさに観察する。この連続した組み合わせにより、疾患に関するコンセプトを理解し、それらが長く記憶にとどまるようにカリキュラムを編成している。
総論では、疾病の原因および本質に関する一般原則を考究する。各論では、個々の臓器や組織に見出される主要な疾病に関する講義を行ない、特に光学顕微鏡やバーチュアルスライドを使用した実習に重点をおいて、自主的に個々の疾病についての病理学的知識および考え方を修得できるよう指導している。
教科書・参考書として、豊國伸哉・高橋雅英の監訳した「ロビンス基礎病理学」(丸善出版) を推薦している。この本は世界で最も広く医学生に読まれている教科書の日本語訳である。
3 年生の前期に総論および各論のすべての講義を行なう。これにより疾病が種々の病因から成ることを理解し、病因に基づく疾病の分類、把握が出来るように指導する。また各疾病に特徴的なマクロ・ミクロ像を把握し、形態的側面から種々の疾病の本態を理解する。特に実習に重点をおき、各種疾病の形態的特徴を十分把握出来るようにする。
5 年生では病理解剖例を使用して、臨床実習のグループごとに 1 症例を担当する。臨床経過と病理解剖所見を整理、検討し、CPC 形式でクラス討論を行う。臨床所見と病理解剖結果を統合することにより、個体における疾患の経過・結末を把握する修練の機会を持つ。以下が達成目標である。
上記の目標を達成するため、3 年生で 12 回の総論と 29 回の各論の講義・実習を行う (1 回 2 時限)。詳細は別紙日程表を参照。5 年生では全グループの回数だけ CPC を行い、報告集の作製を行う。
教科書は連休明けまでに必ず購入すること。病理学は医学部全教科の背骨である。プリントだけでは、試験に合格しても後に残らない。必ず教科書 1 冊は通読すること。
上記 2 冊は世界中の医学生が使用している標準的教科書であり、記載に誤りが少ない。
このほか各担当教官が授業時に推薦する。この時期に英語の教科書を読むよう努力することを強く勧める。毎年、日本語の暗記本を持っている学生を見かけるが、これらは記載が不十分であり論理的思考の妨げとなるため試験直前のみに使用されたい。
豊國 伸哉
病理病態学講座生体反応病理学/分子病理診断学 (旧第一病理)
教授: 豊國 伸哉
講師: 赤塚 慎也
講師: 岡﨑 泰昌
助教: 山下 享子
病理病態学講座腫瘍病理学 (旧第二病理)
教授: 高橋 雅英
准教授: 浅井 直也
准教授: 榎本 篤
講師: 浅井 真人 (特任)
高次医用科学講座臓器病態診断学
教授: 中村 栄男
高次医用科学講座病態構造解析学
講師: 加藤 省一
医療技術学専攻・病態解析学講座 (旧保健学科)
教授: 長坂 徹郎
准教授: 川井 久美
附属病院病理部
准教授: 下山 芳江
助教: 中黒 匡人
疾病の概念とその歴史的変遷、疾病の発生機構の概要、基本的な病理学用語に関して学習する。
変性ならびに壊死・アポトーシスなどの細胞死について学習する。
変性、壊死、壊疽、乾酪壊死、フィブリノイド壊死、アポトーシス、カスパーゼ、オートファジー
活性酸素・フリーラジカル・酸化ストレスと生活習慣病との関わりについて学習する。
フリーラジカル、活性酸素、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシド、一酸化窒素
脂質代謝の障害 (高脂血症・動脈硬化症)、糖代謝の障害 (糖尿病)、蛋白代謝の障害 (アミロイドーシス) などに関して学習する。
動脈硬化症、家族性高コレステロール血症、リポ蛋白、1 型・2 型糖尿病、インスリン、β 細胞、糖尿病合併症、アミロイドーシス、フレンチパラドクス
金属代謝の障害 (鉄代謝、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病)、色素代謝の障害 (黄疸)、無機質代謝異常 (痛風など) に関して学習する。
鉄、ヘモジデローシス、ヘモクロマトーシス、トランスフェリン、銅、ビリルビン、黄疸、痛風
遺伝性・先天性疾患: 代表的な遺伝性疾患・先天性疾患に関して学習する。
染色体、遺伝子、セントラルドグマ、先天性奇形、優性遺伝、劣性遺伝、単遺伝子疾患、多因子性遺伝疾患、疾患感受性
細胞や組織の活動は、供給血液中に含まれている酸素に依存するところが大きい。血液ないし体液供給の異常により、臨床で最もよく遭遇する浮腫、うっ血、出血、ショックが発生する。血栓症、塞栓症および梗塞などについても学習する。
浮腫、うっ血、出血、血栓症、DIC、塞栓症、梗塞、ショック
炎症は、生体が様々な傷害を受けた時これを修復しようとする一連の過程である。一方、免疫は、生体が様々な外敵となる異物に侵された場合、これを排除しようとする反応である。この項では炎症反応に関わる細胞、組織変化を理解するとともに、 免疫担当細胞やこれらが出す化学物質による変化や、正常の免疫反応の破綻により発生する自己免疫疾患についても理解する。
白血球、遊走、走化性、食作用、化学的仲介物質、化膿性炎症、慢性炎症、肉芽種性炎症、T リンパ球、B リンパ球、マクロファージ、NK 細胞、過敏性疾患、自己免疫疾患、免疫不全症、日和見感染
腫瘍の分類、遺伝子変異による腫瘍の発症機序、さらにがん転移の分子機序について、最近の分子生物学的研究によって明らかになった知見を含めて解説する。
良性腫瘍、悪性腫瘍、上皮性腫瘍 (癌腫)、非上皮性腫瘍 (肉腫)、腫瘍の発生機構、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、がんの転移
造血器疾患に関して骨髄を中心に述べる。末梢血と骨髄造血の関係、造血幹細胞と血球分化、急性白血病と骨髄異形成症候群の分類を総論的に解説し、白血病や貧血、前白血病状態、単クローン性免疫グロブリン血症、骨髄増殖疾患などを各論的に講義実習する。
造血幹細胞、造血前駆細胞、G-CSF、エリスロポエチン、FAB 分類、MDS、慢性白血病、骨髄増殖性疾患、巨赤芽球性貧血、monoclonal gammopathy、髄外造血、胸腺腫
悪性リンパ腫は過去 20 年間の間に分類の基本概念が大幅に変遷し、また複数の分類が提唱され並列的に用いられている。亜型項目が多く馴染みにくい腫瘍と思われるが、その概観と現状について解説する。
悪性リンパ腫、病理分類、組織像、免疫学的特徴、分子生物学的特徴、ウイルス学的特徴
実習講義回数は合計 5 回で、口腔・唾液腺・食道・胃・腸管 (3 回) と肝・胆・膵 (2 回) について学習する。回数が少ないので、すべての疾患を含むわけにはいかないが、キーワードに示した炎症・腫瘍性疾患を中心に、その組織学的及び肉眼的特徴や臨床との関連性について解説する。
急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝癌、急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、胆のう炎、胆石症、胆のう癌、食道癌、胃炎、胃潰瘍、胃癌、胃大腸腺腫、大腸癌、炎症性腸疾患 (クローン病、潰瘍性大腸炎など)、感染性腸疾患 (アメーバ、結核など)
視床下部、下垂体、松果体、副腎、膵島および甲状腺の発生、構造および機能を概説した上で、これら臓器の発生異常、循環障害、炎症、腫瘍および機能異常について述べる。異所性機能性腫瘍についてもふれる。
視床下部、下垂体、松果体、副腎、膵島、甲状腺、異所性機能性腫瘍
乳腺病変には、under-diagnosis されやすい病変 (非浸潤性乳管癌、血管肉腫) と over-diagnosis されやすい病変 (乳頭部腺腫、硬化性腺症、ductal adenoma) があり、その鑑別について講義する。
管内乳頭腫、筋上皮細胞、血管肉腫、硬化性腺症、乳頭部腺腫、非浸潤性乳管癌
呼吸器疾患病理の各論を、それぞれの疾患について病態およびその形成メカニズムを中心に講義する。病理総論の分類に基づき体系的な疾患概念を中心に呼吸器疾患全般の理解をする。一方、パターン認識からの疾患をとらえる方法で特に機能的 (病態生理学的) 方向からのとらえ方も講義する。
気管支・肺胞の解剖、呼吸生理、肺高血圧症、血栓症・塞栓症、血管炎症候群、うっ血・水腫、気管支炎・肺炎、閉塞性肺疾患、ウイルス性肺炎、真菌性肺炎、原虫性肺炎、間質性肺炎、肺の良性腫瘍、肺の上皮性悪性腫瘍、肺の非上皮性悪性腫瘍、リンパ増殖性疾患、職業性肺疾患、代謝性肺病変、肺の奇形、パターン認識
神経病理の目的、対象、検索方法、脳の肉眼的異常所見
神経系の組織学的異常所見
循環障害 (脳出血、脳梗塞、虚血性脳障害、静脈洞血栓症、血管奇形)
腫瘍 (脳腫瘍の分類、組織像の特徴)
炎症 (髄膜炎、脳炎、Creutzfeldt-Jakob 病、HAM など)
変性 (脊髄小脳変性症、運動ニューロン疾患、痴呆症疾患)
脳浮腫と脳萎縮、空間占拠性病変、神経細胞の病的変化、グリア細胞の病的変化、頭蓋内出血、脳塞栓と脳血栓、脳血管性痴呆、脳腫瘍の分類、転移性脳腫瘍、脳腫瘍の組織学的特徴、化膿性髄膜炎、ウイルス性脳炎、Creutzfeldt-Jakob 病、HAM、進行性多巣性白質脳症、運動ニューロン疾患、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、Alzheimer 病、多発性硬化症
女性生殖器の発生および卵巣・卵管・子宮・子宮頚部・膣・外陰に発生する腫瘍の特徴について講義する。
[卵巣] 漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、類内膜性腫瘍、明細胞性腫瘍、ブレンナー腫瘍、性索間質腫瘍、胚細胞腫瘍;
[子宮体部] 子宮内膜増殖症、子宮内膜異型増殖症、類内膜腺癌、平滑筋肉腫、内膜間質肉腫、癌肉腫;
[子宮頚部] ヒトパピローマウイルス感染、異形成、粘膜内癌 (CIS)、扁平上皮癌、腺癌;
[膣] 扁平上皮癌、メラノーマ; [外陰] パジェット病
泌尿器講義では、男性生殖器として前立腺、精嚢、睾丸、副睾丸、精索、陰茎、陰嚢とそれらに発生する奇形、炎症、循環障害、腫瘍、腫瘍様病変について概説し、泌尿器として、腎臓、尿管、膀胱、尿道に発生する疾患の病理について解説する。平成 23 年度より非腫瘍性腎疾患の講義を 1 回増やした。
前立腺肥大、前立腺癌、男性不妊症、睾丸腫瘍、陰茎癌、微小変化ネフローゼ症候群、膜性腎症、増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、グッドパスチャー症候群、糖尿病性腎症、腎移植、慢性腎盂腎炎、嚢胞腎、ウィルムス腫瘍、腎細胞癌、血管筋脂肪腫、水腎症、腎盂癌、尿管癌、膀胱炎、膀胱癌
医療の高度化に伴って重症入院患者の院内感染、免疫抑制患者の日和見感染が増加し、その対策が重要な課題になっている。また、1980 年代以降 HIV 感染の世界的な蔓延に歩調を合わせるように、種々の新興感染、再興感染にも注目が集まっている。こうした現状を踏まえて本講義では病理解剖を含む病理組織学的検査が、医療の現場で感染症の補助診断としてどのように活かされているかを概説するとともに、特に日和見感染症の原因となる代表的な真菌、ウイルス、原虫、寄生虫感染について重点的に個別解説する。ただし、「呼吸器」、「消化器」の項との内容の重複には配慮する。
院内感染、日和見感染、新興感染、再興感染、深在性真菌感染症 (カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムコール症、カリニ肺炎)、ヘルペス属ウイルス感染、非定型抗酸菌症、糞線虫症
皮膚については代表的な炎症性疾患・良性腫瘍・悪性腫瘍に関して概説する。骨軟部組織については、骨に発生する原発性、転移性腫瘍および腫瘍様病変と代謝性疾患ならびに軟部組織に発生する代表的な良悪性の腫瘍について、免疫組織化学染色による鑑別を加えて概説する。皮膚については肉眼所見を、骨軟部については画像等の臨床所見をできるだけ提示する。
メラノーマ、皮膚炎、扁平苔癬、乾癬、前癌病変、皮膚癌、軟骨腫、巨細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、神経原性腫瘍、血管系腫瘍
循環器 (心臓、血管系) の病理学について、以下を重点的に講義する。
心臓の発生、奇形、代謝異常に伴う心疾患
弁膜症、虚血性心疾患
心筋炎、心筋症、心腫瘍
血管炎、大動脈疾患
講義ビデオ・スライドを見る (別ウィンドウが開きます)(2:16:41)
※講義動画および資料の一部に実際の解剖画像が含まれます
April 13, 2020