ジェンダーと経済a,b-2013

講師新井美佐子 准教授
開講部局文学部/国際言語文化研究科 2013年度 通年
対象者国際言語文化研究科 (前期・後期それぞれ2単位週1回 全15回)

演習の内容

経済学では、いわゆる主流派、非主流派の双方において、ジェンダー視点が長らく欠落していた。このことを見直し、経済学やジェンダー研究の学問的発展につなげようとする動きが活発化したのは 1990 年代に入ってからに過ぎない。本演習では、女性研究者を中心に、学派の相違を越えて取り組まれているこうした試み-「フェミニスト経済学」-について国内外の文献から学ぶ。

授業の工夫

広くジェンダーに関心のある学生が受講しており、経済学を含む社会科学を専門とする学生の参加はそれほど多くない。また、中国をはじめとするアジアからの留学生が過半を占める。

そうした受講生の視点から、いわば「外」から見た日本は、先進国では珍しい強固な性別分業の存続と、過重労働ならびに(とりわけ女性の)「豊かな」消費生活を特徴とするようである。彼らが感じ得たそれら特徴を切り口に、その背景にある諸制度の検討へとつなげ、理解の促進を図っている。

そして、現在の社会システムはどのような経緯を辿ってきたのか‐時系列での捕捉、あるいは他の国々ではいかなる制度の上にいかなる社会が成り立っているのか‐横断的比較、といった「縦横」からの考察へと続けられるよう留意している。さらに、社会学や政治学等、経済学と隣接する分野の文献も取り上げ、分析視角やアプローチの違いについて学べるよう努めている。

授業の目標

  • 経済学あるいは経済事象にジェンダー視点から接近し、そこにおける問題点を理解する。
  • 文献の講読、レジュメ作成、ディスカッションへの参加を通じ、論文を書く、意見を交わすといった研究活動の基礎を修得する。

進め方

初講はオリエンテーションを行う。

続く第 2 講以降、数講かけて、久場嬉子(2002)をテキストに、経済学におけるジェンダー研究の概要を把握する。

その後、前期は主に理論研究を扱った文献を、後期は実証分析に関する文献を取り上げ、毎講次のように進めていく。

  1. 報告者による講読文献のまとめ(要レジュメ)
  2. 用語・内容等に関する解説および質疑応答
  3. 報告者あるいは受講者が提示したディスカッション・ポイントについて議論

レジュメには、単に講読文献の抜書きを羅列するのではなく、講読文献の構成や内容が明瞭に捉えられるよう工夫を凝らして欲しい。またディスカッション・ポイントの提示に際しては、講読文献の内容を補足あるいは発展させるようなデータや文献、資料を添付するなどしても構わない(むしろ望ましい)。

これらの作業は、研究分野に関わらず、「論文を書く」-既存研究の不足点あるいは批判すべき点を見出し、問題として設定し、適切な方法と過不足なく明確な論述によって解を示す-ための訓練の一つとなろう。

さらに、教員あるいは受講者が参加した関連学会・研究会に関する報告なども適宜行い、最新の研究成果の紹介に努める。

「経済」という語がカバーする範囲はいうまでもなく非常に広く、特にジェンダーとの関わりが深いと考えられる分野に限っても、労働、子育て・介護をはじめとする社会的再生産、社会保障、あるいはグローバルな経済システム等、多様である。

本演習でこれら全てについて検討することは無論不可能であるが、上記のような様々な経済領域が密接に関わりあっているということを常に念頭に置き、広い視野でジェンダーを理解するよう心掛けて頂きたい。なお、本演習を通じて、ジェンダー研究が、女性(とりわけ、いわゆる「働く女性」)のみの利益を追求・主張するものでは決してないことが理解されると思う。

成績評価の方法

毎回のディスカッションへの参加度(50%)、ならびに報告担当時のレジュメ/ディスカッション・ポイントの内容(50%)。

教科書

講読文献は、受講者の専門領域や希望、習得言語等を考慮して開講後決定する。

参考書

参考書、関連文献等は、演習中に適宜指示する。

履修条件

経済学の知識を備えた上での受講が望ましいことは無論だが、必須ではない。「経済」とは、われわれの「日常生活」とも言い換え得る身近な活動であり、そこにおけるジェンダー問題とは誰しも無関係ではないはずである。

受講者の希望(言語、テーマなど)を可能な限り考慮して講読文献を決める予定なので、専門分野を問わず、また単位が不要であっても、関心や意欲のある学生の真摯な受講は大いに歓迎する。なお、前期-後期と継続受講することで、上記の「授業の目標」がより達成されると思われる。


投稿日

March 04, 2020