講師 | 玉岡賀津雄 教授 |
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開講部局 | 文学部/国際言語文化研究科 2011年度 通年 |
対象者 | 国際言語文化研究科 日本言語文化専攻 大学院生 (2単位・週1回全15回) |
本講義は,言語を対象としたあらゆる研究における実証的方法論を身につけることを目的とする.従来,言語の研究はとかく一個人内の「直感」で行われ,その議論は科学的な「実証」に基づかないまま展開される傾向があった。研究領域の健全な発展のためには,然るべき手法で得られたデータの適切な検証を通して,言語現象が論じられなければならない。本講義では,とくに心理言語学の手法に基づいて,これまで議論されてきた様々な言語理論を科学的に実証するための方法を習得する.
具体的には,調査・実験計画の立案,データの統計解析,分析結果の読み方,論文での報告の仕方など一連の論文作成のための手法を,具体的な研究事例を紹介しながら提示する.本講義では,1 回のクラスごとに 1 つの研究テーマを設け,そのテーマに対してどのようにアプローチしていけばよいかという仮説検討型の授業を行っていく.
前期の「日本語教育学言論 a」では,言語を対象とした実証的研究のための基礎を学んだ。「日本語教育学言論 b」では,さらに高度な解析手法を扱うことになる.
「日本語教育学言論 a」の授業に続いて,言語研究に応用可能なより高度な数学・統計解析を,具体的なデータを紹介しながら教示する.授業の内容は,次の4つである:(1) 多変量の因果関係のモデルの適合の良さを検討する構造方程式モデリング (SPSS AMOS 16.0)—構造方程式モデリング (SEM; Structural Equation Modeling), (2)無料の実験プログラム作成ソフト DMDX の使用法,(3)小規模サンプルのための項目応答理論 (T-DAP という統計ソフトを使用 ), そして(4)エントロピー (entropy)と冗長度 (redundancy)の指標によるコーパス解析 (Microsoft Excel に公式を入れて計算 )である.
1 回のクラスごとに 1 つの研究テーマを検討する。この中で,(1)どのようにサンプルを集め,(2)どのようなデータ収集,テストあるいは実験をして,(3)どのような分析を行い,(4)どのように図表化し,(5)どのように分析結果を報告し,(6)さらにどのように結論に導くかという,6つの‘どのように(How)’の順に一連の研究方法を説明する.データの解析には, Microsoft Excel と SPSS 社の統計パッケージを用いる.言語の理解や習得に関係した仮説を検討するために,音韻,語彙,文,コーパスから得られる頻度など多様なデータについて,15 回の授業で基礎的な分析法を指導する.
ノンパラメトリック分析としては,頻度データの解析のための一様性の検定,独立性の検定,クラスタ分析を扱う.パラメトリック分析としては,t検定,分散分析,多重比較,単純対比,などを扱う.また,予測分析としては,相関係数,単回帰,重回帰,判別分析を扱う.さらに,ノンパラ・パラメトリック双方のデータを扱うことのできる「決定木 (decision tree)」分析 (SPSS Classification Tree) の概念と使用法を紹介する.これらの手法のそれぞれについて,実際の言語実験・調査から得られたデータを用いて SPSS 社の統計パッケージを使って分析してみる.その後,得られた結果の読み方,図表の書き方,報告の仕方も教示する.
データ資料は授業中に USB メモリーで配布する.
特になし
宮岡弥生・玉岡 賀津雄・林炫情・池映任 (2009). 韓国語を母語とする日本語学習者による漢字の書き取りに関する研究 − 学習者の語彙力と漢字が含まれる単語の使用頻度の影響 −. 日本語科学, 24, 105-116.
柴崎秀子・玉岡賀津雄・高取由紀 (2007). アメリカ人は和製英語をどのぐらい理解できるか − 英語母語話者の和製英語の知識と意味推測に関する調査 −. 日本語科学, 21, 89-110.
玉岡賀津雄・林炫情・池映任・柴崎秀子 (2008). 韓国語母語話者による和製英語の理解. レキシコンフォーラム, 4, 195-222.
玉岡賀津雄・邱學瑾・宮岡弥生・木山幸子 (2010). 中国語を母語とする日本語学習者によるかき混ぜ語順の文理解—聴解能力で分けた上位・中位・下位群の比較—. 日本語文法, 10(1), 1-17.
これらの資料はhttps://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~ktamaoka/scholarly/index.htmlからダウンロードできる.
回 | 講義内容 |
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1 | 連濁の有無とライマンの法則: 頻度データに関する一様性の検定 |
2 | 連濁の変化と第1要素の影響: 頻度データに関する独立性の検定およびFisherの直接法 |
3 | 焼酎の連濁の種類と地域の影響および普通体と丁寧体の使用頻度: 決定木分析 |
4 | 接続助詞の文中・文末表現の頻度: コレスポンデンス分析と決定木分析の違い |
5 | 日本語の聴解テストや語彙・文法テストによるグループ分け: 記述統計 |
6 | テストの信頼性と妥当性: クロンバックの信頼度係数およびガットマンの折半法 |
7 | 対格および与格動詞の使役文の頻度: 等分散性と各種のt検定 |
8 | 和製英語の理解: t検定,カイ二乗検定,フィッシャーの直説法,ボンフェローニの調整 |
9 | 中国人とトルコ人日本語学習者の漢字の書き取り能力: ペアーマッチサンプリングとt検定 |
10 | 中国語母語話者によるかき混ぜ文の理解: 対応のあるサンプルのt検定とクラスタ分析 |
11 | 韓国語母語話者による和製英語・韓製英語の理解: 分散分析と多重比較およびクラスタ分析 |
12 | 日本人母語話者による短縮語の理解: 二元配置の分散分析とクラスタ分析 |
13 | 聴解と音声提示された正順・かき混ぜ語順の文の理解: 反復を含む二次元配置の分散分析 |
14 | 山口方言話者のモーラ・音節産出の世代間比較: 被験者と項目データの概念と分析 |
15 | まとめ・最終試験—四者択一形式の最終試験 |
回 | 講義内容 |
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1 | 中国語を母語とする日本語学習者の語彙と文法の相関関係: Excelによる散布図と相関 |
2 | 中国語を母語とする日本語学習者の語彙と文法の読解への影響: SPSSによる相関,重回帰分析 |
3 | 中国語を母語とする日本語学習者の語彙,文法,「のだ」習得,読解の因果関係: AMOSによる相関,重回帰,パス解析 |
4 | 中国語を母語とする日本語学習者の語彙,文法,「のだ」習得,読解の多様なパス解析: AMOSによる多様なパス解析の試み |
5 | 韓国人の「感情のIQ」その1: SPSSによる探索的(exploratory)因子分析 |
6 | 韓国人の「感情のIQ」その2: AMOSによる探索的(exploratory)因子分析 |
7 | 日本語習得における背景要因: AMOSによる多重指標モデルと各種の適合度検定 |
8 | 日本語の意味判断課題: 実験用ソフトDMDXの設定と反応時間パラダイム |
9 | 日本語の聴覚提示刺激の作成とプログラミング: 実験用ソフトDMDXの応用① |
10 | 派生型・非派生型動詞のクロスモーダル実験: 実験用ソフトDMDXの応用② |
11 | 日本語の語彙的・統語的複合動詞の特性: エントロピーと冗長度による検討 |
12 | 日本語文法テストの問題吟味: 項目応答理論の1パラメタ・ラッシュモデル(Rasch Model) |
13 | アスペクトによる韓国語の-hada付加の予測: 二項ロジスティック回帰分析 |
14 | まとめ・最終試験—四者択一形式の最終試験 |
四者択一の最終試験問題で評価する
May 08, 2020