講師 | 大屋雄裕 教授 |
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開講部局 | 法学部 /法学研究科 2005年度 前期 |
対象者 | 法科大学院(大学院法学研究科実務法曹養成専攻) (2単位・週1回全15回) |
情報化社会の現状と法的諸問題について講義するとともに、情報技術の発展が何を意味するのか、社会の情報化の本質は何かという問題に考察を加える。特に、それが従来の社会とそれを支えていた様々な価値・理念にいかなる変容をもたらすか(あるいはもたらさないか)を理論的見地から問題とし、具体的な法制度との関連を追求する。基本的に講義形式だが、前提となる技術的知識については適宜説明を加えるとともに、実際に利用・経験してみる課題を課す。
この講義は法科大学院科目であるため、本来なら学生との議論などを重視したインタラクティブな性質を持つことが求められている。しかし、題材の性質上まだ学生が独自に学習できるような教材が充実していない点、基本的な知識を含め幅広く把握することが求められる点などを考慮し、あえて講義形式に絞っている。憲法・刑事法・民事法などの領域にまたがる情報化に関する問題を総合的に把握できるパースペクティブを学生に持ってもらうことが、講義の目的である。
そのため、対象として扱う問題を幅広く選ぶだけではなく、それらを理解し検討するための基礎となる社会学・哲学的な理論も説明し、単に現行法に関する知識の習得にとどまらず将来的な・立法論的な思考ができるよう工夫している。
成績評価については、上述の通り講義形式をとっていることもあって期末試験によるほかないが、論述式の概括的な出題をすることによって独自の見解・理論的構成力を見るようにしている。
情報化社会の現状と法的諸問題について講義するとともに、情報技術の発展が何を意味するのか、社会の情報化の本質は何かという問題に考察を加える。特に、それが従来の社会とそれを支えていた様々な価値・理念にいかなる変容をもたらすか(あるいはもたらさないか)を理論的見地から問題とし、具体的な法制度との関連を追求する。基本的に講義形式だが、前提となる技術的知識については適宜説明を加えるとともに、実際に利用・経験してみる課題を課す。
特になし。情報機器やネットワーク利用法の講義ではないので、それらの操作に熟達している必要はない。
教材を配布する。
参考資料の項目参照
古瀬幸広・廣瀬克哉『インターネットが変える社会』岩波新書(岩波書店 1996)
村井純『インターネット』岩波新書(岩波書店 1995)
村井純『インターネット II』岩波新書(岩波書店 1998)
中山信弘『マルチメディアと著作権』岩波新書(岩波書店 1996)
名和小太郎『サイバースペースの著作権:知的財産は守れるのか』中公新書(中央公論社 1996)
名和小太郎『ディジタル著作権:二重標準の時代へ』(みすず書房 2004)
林紘一郎『情報メディア法』(東京大学出版会 2005)
立花隆・他『新世紀デジタル講義』(新潮社 2000)
松原隆一郎『コンピュータの社会的意義:その光と影』『さまよえる理想主義:現代日本社会論』(四谷ラウンド 1996)
廣瀬克哉「「情報革命」と権力: 覇権化・アナキー化・民主化の相剋」井上達夫(編)『岩波新・哲学講義 7 自由・権力・ユートピア』(岩波書店 1998)
大澤真幸『電子メディア論:身体のメディア的変容』(新曜社 1995)
佐藤俊樹『ノイマンの夢・近代の欲望: 情報化社会を解体する』講談社選書メチエ 87 (講談社 1996)
マイケル・ハウベン&ロンダ・ハウベン『ネティズン:インターネット、ユースネットの歴史と社会的インパクト』(中央公論新社 1997)
Alexis de Tocqueville, De la Democratie en Amerique → 井伊玄太郎(訳)『アメリカの民主政治』(講談社 1987)
大屋雄裕「ネットワークと重層化するコミュニティ」『法哲学年報 2001 情報社会の秩序問題』(有斐閣 2002) pp. 76-91.
大屋雄裕「情報化社会における自由の命運」『思想』2004 年第 9 号(特集・リベラリズムの再定義),岩波書店, 2004, pp. 212-230.
木村忠正『デジタルデバイドとは何か: コンセンサス・コミュニティをめざして』(岩波書店 2001)
西垣通『聖なるヴァーチャル・リアリティ:情報システム社会論』21 世紀問題群ブックス 23(岩波書店 1995)
高橋和之「インターネットと表現の自由」ジュリスト No. 1117 (1997.8.1-15) pp.26-33.
町村泰貴「告発ページ: 東芝クレーマー事件」岡村久道(編)『インターネット訴訟 2000』(ソフトバンク 2000)、pp. 276-290.
渥美京子「民主主義の理想郷・電脳ネットワークの『自由』と『プライバシー』」『宝島 30』1994 年 7 月号、宝島社
エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』日高六郎訳(東京創元社 1965)
シェルビー・スティール『黒い憂鬱』李隆訳(五月書房 1994)
河崎貴一『インターネット犯罪』文春新書(文藝春秋 2001)
市川智「『覚悟と矜持』:現代思想フォーラムの戦いは何であったか」ニフティ訴訟を考える会(編)『反論: ネットワークにおける言論の自由と責任』(光芒社 2000)
大澤真幸『電子メディア論:身体のメディア的変容』(新曜社 1995)
R.D.レイン『ひき裂かれた自己:分裂病と分裂病質の実存的研究』阪本・志貴・笠原訳(みすず書房 1971)
大屋雄裕「Digital Empowerment の功罪: レヴァイアサンからレギオンへ」科学研究費補助金・基盤(C)一般「公共圏の重層的多元化と法システムの再編」研究成果報告書(2003)
大屋雄裕「プライバシと意思」法律時報 2003 年 7 月号(日本評論社 2003) pp. 20-25.
手嶋豊『パソコン通信での中傷に賠償を命令』法学教室 No. 206 (1997.11) pp. 17-23.
山口いつ子『パソコン通信における名誉毀損』 法律時報 vol. 69, no. 9 (1997), pp. 92-96.
K.K.Campbell, "A Net.Comspiracy So Immense...: Chatting with Martha Siegel of the Internet's Infamous Canter & Siegel", http://www.eff.org/Legal/Cases/Canter_Siegel/c-and-s_summary.article
宮台真司『権力の予期理論:了解を媒介にした作動形式』(勁草書房 1989)
望田幸男『ドイツ統一戦争:ビスマルクとモルトケ』教育社歴史新書(教育社 1979)
村井純『インターネット』岩波新書(岩波書店 1995)
河崎貴一『インターネット犯罪』文春新書(文藝春秋 2001)
高木篤夫「名誉毀損とプライバシー侵害をどう防ぐか」藤原宏高(編)『サイバースペースと法規制:ネットワークはどこまで自由か』第 3 章(日本経済新聞社 1997)
藤原宏高「サイバースペースの法整備を急げ」藤原宏高(編)『サイバースペースと法規制: ネットワークはどこまで自由か』序章(日本経済新聞社 1997)
一松信『暗号の数理:作り方と解読の原理』講談社ブルーバックス(講談社 1980)
サイモン・シン『暗号解読:ロゼッタストーンから量子暗号まで』青木薫(訳) (新潮社 2001)
なし
野村憲弘「著作権はどこまで保護されるべきか」藤原宏高(編)『サイバースペースと法規制: ネットワークはどこまで自由か』第 2 章(日本経済新聞社 1997)
黒崎政男「IT 革命で失われるもの」(朝日新聞 2000/08/08 夕刊)
中山信弘『マルチメディアと著作権』岩波新書(岩波書店 1996)
山本強『移り気な人の情報工学: コンピューティングエッセイ』CQ 出版, 1997.
名和小太郎『サイバースペースの著作権: 知的財産は守れるのか』中公新書(中央公論社 1996)
森博嗣『封印サイトは詩的私的手記』(幻冬舎 2001)
Lawrence Lessig, CODE: and Other Laws of Cyberspace (Basic Books, 1999) → 山形浩生・柏木亮二(訳)『CODE: インターネットの合法・違法・プライバシー』(翔泳社 2001)
Theodor Holm Nelson, Literary Machines (自費出版 1981) → 竹内郁雄・斉藤康己(監訳)『リテラシー・マシン: ハイパーテキスト原論』(アスキー出版局 1994)
小泉直樹『アメリカ著作権制度: 原理と政策』(弘文堂 1996)
名和小太郎『技術標準対知的所有権: 技術開発と市場競争を支えるもの』中公新書(中央公論社 1990)
名和小太郎『サイバースペースの著作権: 知的財産は守れるのか』中公新書(中央公論社 1996)
苗村憲司・小宮山宏之(編著)『マルチメディア社会の著作権』(慶応義塾大学出版会 1997)
Fully Licensed GmbH, "Inside Windows Product Activation: A Fully Licensed Paper", http://www.licenturion.com, 2001.
Pamela Samuelson, Randall Davis, Mitchell D. Kapor and Jerome H. Raichman, "A Manifesto Concerning the Legal Protection of Computer Programs", Columbia Law Review, vol. 94, 1994, pp. 2308-.
大屋雄裕「ネットワークと重層化するコミュニティ」日本法哲学会(編)『法哲学年報 2001 情報社会の秩序問題』(有斐閣 2002) pp. 76-91.
回 | テーマ | 講義内容 | 授業時間外の学修活動 |
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1 | 情報化社会と情報 | 「情報化社会」という言葉の意味、情報の定義と性質について理解する。 | 参考文献について自習する。古瀬幸広・廣瀬克哉『インターネットが変える社会』、村井純『インターネット』『インターネットII』など。 |
2 | 情報化社会と国家(1) | 情報民主主義論・デジタルデバイド論・電脳世界論など主な理論について理解する。 | 参考文献について自習する。廣瀬克哉「「情報革命」と権力: 覇権化・アナキー化・民主化の相剋」、木村忠正『デジタルデバイドとは何か: コンセンサス・コミュニティをめざして』、西垣通『聖なるヴァーチャル・リアリティ:情報システム社会論』など。 |
3 | 情報化社会と国家(2) | 従来の理論を批判的に検討する。 | 参考文献について自習する。佐藤俊樹『ノイマンの夢・近代の欲望: 情報化社会を解体する』、大屋雄裕「ネットワークと重層化するコミュニティ」など。 |
4 | ネットワークと言論空間(1) | ネットワークの普及と拡大に伴い生じている問題のうち、言論に関わるものについて認識する。 | 関連判例を事前に学習する。ニフティサーブ事件(東京高裁H13.9.5判決)、ニフティサーブ第二事件(東京地裁H13.8.27判決)。 |
5 | ネットワークと言論空間(2) | 言論に関する法理論(名誉毀損、プライバシ、対抗言論、萎縮効果など)について理解する。 | 参考文献について自習する。高橋和之「インターネットと表現の自由」、大屋雄裕「プライバシと意思」など。 |
6 | ネットワークと言論空間(3) | ネットワーク上の言論を分析するための社会学・哲学理論を理解する。 | 参考文献について自習する。市川智「『覚悟と矜持』: 現代思想フォーラムの戦いは何であったか」、大澤真幸『電子メディア論:身体のメディア的変容』など。 |
7 | ネットワークと統治可能性(1) | 情報化に伴い生じているセキュリティ上の問題(プライバシー侵害、迷惑メイルなど)について認識する。 セキュリティ問題と国家論の関係について理解する。 |
spam問題などに関し、事例・関連報道を調査する。 |
8 | ネットワークと統治可能性(2) | セキュリティ問題を題材として権力理論を理解する。 | 関連する議論を調査する。 |
9 | 情報とセキュリティ | セキュリティ問題に関する技術的知識(暗号、データマイニングなど)を習得する。セキュリティ問題を分析するための法学・社会学理論を理解する。
補足配付資料「インターネットにおけるセキュリティ」 |
参考文献について自習する。サイモン・シン『暗号解読: ロゼッタストーンから量子暗号まで』、藤原宏高(編)『サイバースペースと法規制:ネットワークはどこまで自由か』など。 |
10 | 情報化と知的財産権 | 知的財産権制度の骨格と制度の正当化理論(誘因説・自然権説など)を理解する。 | 関連法令を事前に学習する。 |
11 | 著作権制度とその変容(1) | 著作権制度の前提とする情報流通技術のあり方と、デジタル化に伴う変容について理解する。 | 参考文献について自習する。中山信弘『マルチメディアと著作権』、マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』など。 |
12 | 著作権制度とその変容(2) | デジタル化に対応する情報技術と、その法理論的な問題点について理解する。 | 関連する議論を調査する。 |
13 | ソフトウェアの法的保護(1) | ソフトウェアの法的保護をめぐる論争と問題点について理解する。 | 参考文献について自習する。小泉直樹『アメリカ著作権制度』など。 |
14 | ソフトウェアの法的保護(2) | 知的財産権制度の理論的前提とその限界を分析するための法学理論を理解する。 | 参考文献について自習する。ローレンス・レッシグ『CODE: インターネットの合法・違法・プライバシー』など。 |
15 | まとめ・試験 |
第 1 回
第 2—3 回
第 4—6 回
第 7—8 回
第 9 回
第 10 回
第 11—12 回
第 13—14 回
学期末の試験(100%)。中途で出題する課題によって加点する。
March 12, 2020