2011年度 退職記念講義
講師 | 那須民江 教授 | |
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開講部局 | 医学部/医学系研究科 | |
日時 | 2012/3/29 16:00-17:30 | |
場所 | 基礎医学研究棟3階第1講義室 |
講師 | 那須民江 教授 |
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開講部局 | 医学部/医学系研究科 |
日時 | 2012/3/29 16:00-17:30 |
場所 | 基礎医学研究棟3階第1講義室 |
向春の候となりましたが、研究室からはまだ冠雪した信州の山並みが望まれ、厳しい故郷の残寒を感じるこの頃です。
私は主に化学物質の毒性学を専攻してきました。中毒対応型研究は毒性学の代表的スタイルですが、予め化学物質の毒性とその分子基盤を解析し、リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーションに繋げる「リスク対応型研究」も社会医学においては必須です。この種の代表的な研究として、プラスティック可塑剤フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の毒性分子基盤研究を行いました。2000 年 IARC は DEHP の肝発がん性はペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPARα)に関連し、その発現が極めて低いヒトでは発がん性は考えられないとして、発がん性分類を 2B から 3 に引き下げました。その後 Environmental Health Perspectives(EHP)上で、賛否両論の激しい議論が交わされましたが、当時私は偶然 PPARα 欠損マウスにも肝腫瘍が発生することを確認しており、この発がんランク引き下げの根拠に科学的疑問をもち、名古屋大学での最初の仕事としました。結局 2007 年に PPARα に依存しない肝臓腫瘍発生のメカニズムが私達によって報告され、2009 年 IARC でエキスパート会議が開催されました。最終日に、発がん分類を見直すべき物質について討論され、DEHP はその一つでありました。翌年の 2010 年サマリーが EHP に、フルペーパーは Research Recommendations for Selected IARC-Classified Agents, IARC Technical Report として出されました。2011 年、IARC はモノグラフ会議を開催し、DEHP の発がん分類を 3 から再び 2B に変更しました。私にとっては至福の瞬間でした。
那須 民江(なす・たみえ)医学系研究科教授
医学博士 , 信州大学 , 論文 , 1981 年 10 月
April 24, 2013