法哲学-2018

講師松尾陽 教授
開講部局法学部/法学研究科 2018年度 前期
対象者法学部 3年 4年 (4単位週1回全15回)

講義概要

法とは何かと法はどうあるべきかという法哲学上の問題を説明する。

前者は法概念論や法理論を内容とする。後者は正義論を内容とする。キーワードとしては、自然法論、法実証主義、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムなどの基本概念を理解し、そのうえで、具体的な問題を考察できるようにすることが狙いである。そうすると、さまざまな公共政策をめぐる問題にアプローチするための基礎が獲得できるだろう。

第 01 回はイントロダクションであり、第 02 回から第 13 回までの授業は、法概念論・法理論を取り扱う。第 14 回から第 30 回は、正義論を取り扱う。

到達目標

まずは、自然法論、法実証主義、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムなどの基本概念を理解する。すなわち、実定法を含んだ公共政策を考察するうえでの専門的な基礎知識を獲得することが目標となる。

次に、こうした基本概念の理解を前提にしたうえで、概念同士の関係を理解する。たとえば、帰結主義と義務論、結果状態原理と歴史原理はどのように対比されるのかという関係を理解する。こうした概念同士の対比をよりよく理解すれば、具体的な問題に取り組むうえで、どの要素に着目するのかという視点を養うことができ、総合的に判断する能力の育成に資するだろう。

履修条件あるいは関連する科目等

特になし。ニュースを見て、世の中のことをよく考えてみてください。また、世の中に対する無関心な人は、無関心であることの正当化根拠を考えてみてください。考える人のみを歓迎します。

授業内容

  1. イントロダクション
    授業の進め方、習熟の達成目標、試験の方法、教科書・参考文献の紹介
    法哲学とは何か? 第一部と第二部の二部構成

  2. 動物と人間(1)【第一部のはじまり:法概念論・法理論編】
    自然主義的人間特別論、アリストテレス、フィリッパ・フット

  3. 動物と人間(2)
    動物行動学の展開(コンラート・ローレンツ、フランス・ドゥ・ヴァール)

  4. 動物と人間(3)
    合理主義、観念論(カント、コースガード)

  5. 自然法論と法実証主義(1)
    自然法論の概略、法実証主義の概略(ハートの分類)、ハート・フラー論争

  6. 自然法論と法実証主義(2)
    機能主義的法実証主義(ルーマン)、ハート・ドゥオーキン論争

  7. 決め方の論理(1)
    法実証主義と正統性、第二階の決定(サンスティーン)

  8. 決め方の論理(2)
    法解釈方法論、裁判制度

  9. 近代以降の法の基礎理論
    近代法と現代法

  10. 近代以降の法の基礎理論
    ポスト現代法の課題、民営化・市場化・グローバル化

  11. 法類型論
    トルーベクらの三類型論、田中成明の三類型論(日本法の特質)、司法制度改革、規制形態論

  12. 法とアーキテクチャ(1)
    法規制とアーキテクチャによる規制の特質の比較

  13. 法とアーキテクチャ(2)
    犯罪予防の方法と法、割れ窓理論・状況的犯罪予防論とその人間論的前提

  14. 正義論のイントロダクション【第二部のはじまり:正義論編】
    正義論の分類

  15. 正義の懐疑論
    価値相対主義、マルクス主義

  16. リベラリズムの概要
    基本原理、分類(古典的/現代的、自律尊重型/多様性尊重型、合理主義/経験主義)

  17. リベラリズムの法制度
    古典的リベラリズムと危害原理、パターナリズム、現代的リベラリズムと福祉制度

  18. リベラリズムの思想史
    宗教改革・宗教戦争、商業の精神論、啓蒙主義

  19. 功利主義(1)
    功利主義の三要素、功利主義の難点、功利主義と制度、功利主義の二つの顔

  20. 功利主義(2)
    功利主義と法制度、リベラリズムとの関係

  21. ロールズのリベラリズム(1)
    分配的正義の問題の台頭、ロールズ正義論の全体像、ロールズ正義論の課題、公正と自尊

  22. ロールズのリベラリズム(2)
    正義の二原理(ロールズ後の論争含む)、正義の方法(正義と情報含む)

  23. リバタリアニズム(1)
    リバタリアニズムの登場、分類、道徳的リバタリアニズム

  24. リバタリアニズム(2)
    経済的リバタリアニズム(ハイエク、フリードマン)

  25. コミュニタリアニズム・多文化主義
    分配から承認へ?、自由の文化的基礎。

  26. 共和主義
    自由論の新展開。

  27. 自由からの逃走
    逃走の行きつく先としての宗教あるいは功利主義

  28. 民主政論(1)
    真理との関係(ミルとアーレント)、反映 VS 熟議・参加

  29. 民主政論(2)
    物象化、知識の分散化、実験

  30. まとめ
    いままでの授業のまとめ

成績評価の方法

期末試験 100%
(履修取り下げ制度、採用する)
(授業中で示された松尾の見解に賛成すれば評価が高いというものではない。授業中に示された筋を理解しているかどうか、それについて自分なりに考察できているかどうかが重要である)

教科書

特になし。次に掲げる参考書を適宜参考にしてほしい。

参考書

  • 田中成明『現代法理学』(有斐閣)978-4641125483
  • 平野仁彦・亀本洋・服部高宏『法哲学』(有斐閣アルマ) 978-4641121485
  • 宇佐美誠・瀧川裕英・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣) 978-4641125674

注意事項

私語禁止、授業中のスマホ・携帯の利用の禁止(特に許可した場合は除く)。飲み物は OK。食事は駄目(眠気覚ましのガムは OK)


投稿日

January 08, 2020