古代国家と手工業-2011

course
講師古尾谷知浩 教授
開講部局文学部/文学研究科 2011年度 前期
対象者文学部3・4年生文学研究科 (2単位週1回全15回)

授業の内容

この講義は、文献史学の方法により、日本古代の律令国家が手工業生産をどのように支配しようとしたのか、という問題について、国家が掌握していない部分も視野に入れながら考えることを目的とします。今回は、その中でも瓦の生産を題材とします。まず、六国史、律令格式、正倉院文書などから、古代における瓦生産の基本的なあり方について整理した上で、次に発掘調査によって出土した文字瓦の分析を行います。瓦に記された箆書きの文字は、瓦を焼く前にしか記すことはできません。従って、箆書文字瓦の内容からは、生産現場の情報を知ることができます。文字瓦の分析に基づいて、国家による瓦生産の支配や、国家掌握外の瓦生産の問題について検討したいと思います。

授業の工夫

過去の歴史を研究する学問は、大きく文献史学と考古学に分かれます。過去の人間が文字によって記した史料に基づいて研究するのが文献史学で、過去の人間が作ったり使ったりした物に基づいて研究するのが考古学です。手工業史の研究には、物を作った人間あるいは人間の組織についての分析と、作られた物自体の研究が不可欠です。しかし、文献史料では、人間あるいは組織の側の事情は明らかになりますが、作られた物がどうだったのかということについては教えてくれません。一方、考古資料では、作られた物自体が研究資料として残されていますが、作った側の人間について直接には語ってくれません。物を作った人間が、その物自体に記した文字は、この両者をつなぐ可能性を秘めています。今回の講義では、あくまで文献史学の方法により、箆書きの文字瓦に着目することで、物を作った人間と、作られた物について総合的に分析して、手工業の歴史を明らかにしたいと考えます。

授業の目的

瓦の生産を題材として、古代律令国家が手工業生産をどのように掌握しようとしたのかという問題を理解することを目的とする。

履修条件・注意事項

高等学校日本史教科書程度のことがらについて理解していることを求めます。

参考文献

浅香年木『日本古代手工業史の研究』法政大学出版局、1971

網野善彦『日本中世非農業民と天皇』岩波書店、1984

新井喜久夫「官員令別記について」(『日本歴史』165、1962)

新井喜久夫「雑戸制の一考察」上・下(『日本歴史』233・234、1967)

新井喜久夫「品部雑戸制の解体過程」(『日本古代の社会と経済』上、1978)

荒木敏夫「日本古代の王権と分業・技術に関する覚え書」(『日本古代王権の研究』吉川弘文館、2006、初発表 1994)

有井宏子「陶邑における瓦生産」(狭山池調査事務所『狭山池論考編』1999)

石母田正「日本古代における分業の問題」(『日本古代国家論第一部』1973、初発表 1963)

石母田正「古代社会と手工業の成立」(『日本古代国家論第一部』1973、初発表 1963)

石母田正「国家と行基と人民」(『日本古代国家論 第一部』岩波書店、1973)

井上薫編『行基事典』(国書刊行会、1997)

井上正一「奈良朝における知識について」(『史泉』29、1964)

井上光貞「行基年譜、特に天平十三年記の研究」(『日本古代思想史の研究』岩波書店、1982、初発表 1969)

弥永貞三「仕丁の研究」(『日本古代社会経済史研究』岩波書店、1980、初発表 1951)

井山温子「和泉地方における行基集団の形成 − とくに須恵器生産者との関連から(『史泉』66、1987

岩宮未地子「文字瓦の分析と考察」(堺市教育委員会『史跡土塔 文字瓦聚成』2004)

上原真人「恭仁宮文字瓦の年代」(『文化財論叢』同朋舎出版、1983)

上原真人「天平 12・13 年の瓦工房」(『奈良国立文化財研究所研究論集』7、1984)

上原真人「東国国分寺の文字瓦再考」(『古代文化』41-12、1989)

上原真人「奈良時代の文字瓦」(摂河泉古代寺院研究会編『行基の考古学』塙書房、2002)

上原真人「初期瓦生産と屯倉制」(『京都大学文学部研究紀要』42、2003)

上原真人「寺院造営と生産」(『シリーズ都市・建築・歴史1 記念的建造物の成立』東京大学出版会、2006)

上原真人他編『列島の古代史』2・4・5(岩波書店、2005・2005・2006)

筧敏生「律令官司制の成立と品部・雑戸制」(『古代王権と律令国家』校倉書房、2002、初発表 1994)

梶原義実「国分寺造営期の瓦供給体制 − 西海道諸国の例から −」(『考古学雑誌』86-1、2000)

梶原義実「最古の官営山寺・崇福寺 − その造営と維持 −」(『佛教藝術』265、2002)

梶原義実「造瓦組織の復原と瓦当文 − 東海地方の国分寺から −」(『史林』86-3、2003)

勝浦令子「行基の活動における民衆参加の特質 − 都市住民と女性の参加をめぐって」(『日本古代の僧尼と社会』吉川弘文館、2000、初発表 1982)

勝浦令子「行基の活動と畿内の民間仏教」(『日本古代の僧尼と社会』吉川弘文館、2000、初発表 1986)

勝浦令子「光覚知識経の研究」(『日本古代の僧尼と社会』吉川弘文館、2000、初発表 1985)

狩野久「品部雑戸制論」(『日本古代の国家と都城』東京大学出版会、1990、初発表 1960)

鬼頭清明『古代木簡と都城の研究』塙書房、2000

鬼頭清明「日本古代の都市の前提について」(『古代木簡と都城の研究』初発表、1993)

鬼頭清明「古代都城の庶民生活の一形態」(『古代木簡と都城の研究』初発表 1994)

櫛木謙周『日本古代労働力編成の研究』塙書房、1996

櫛木謙周「日本古代手工業論ノート」(『日本古代労働力編成の研究』塙書房、1996、初発表 1991

櫛木謙周・栄原永遠男「技術と政治 − 律令国家と技術」(『技術の社会史』1、有斐閣、1982)

小林行雄『古代の技術』塙書房、1962

小林行雄『続古代の技術』塙書房、1964

近藤康司「和泉・大野寺の造瓦集団と知識集団」(森郁夫先生還暦記念論文集『瓦衣千年』1999)

近藤康司「大野寺瓦窯からみた造瓦集団の様相」(『藤澤一夫先生卒寿記念論文集』2002)

近藤康司「大野寺を考古学する」(摂河泉古代寺院研究会編『行基の考古学』塙書房、2002)

近藤康司「軒瓦の編年からみた大野寺・土塔の盛衰」(堺市教育委員会『史跡土塔 文字瓦聚成 2004

近藤康司「土塔出土文字瓦の考古学的考察」(堺市教育委員会『史跡土塔 文字瓦聚成』2004)

近藤康司「泉北の古代寺院」(『和泉市史紀要』11、2006)

近藤康司「畿内における民衆と仏教 − 大野寺跡・土塔と山崎院の文字瓦を中心に」(奈良文化財研究所『在地社会と仏教』2006)

堺市教育委員会『史跡土塔 文字瓦聚成』2004

栄原永遠男「行基と三世一身法」(赤松俊秀教授退官記念事業会『赤松俊秀教授退官記念国史論集』文功社、1972)

栄原永遠男「郡的世界の内実 − 播磨国賀茂郡の場合」(『人文研究』51-2、1999)

栄原永遠男「大野寺土塔の知識」(和泉市史編纂委員会『和泉市史紀要第 11 集 古代和泉郡の歴史的展開』2006 年)

鷺森浩幸「陶邑古窯跡群と中臣系氏族」(『和泉市史紀要』11、2006)

柴垣勇夫「伝陶邑窯出土の文字瓦資料について」(愛知県陶磁資料館『研究紀要』12、1993)

清水みき「行基集団と山崎院の造作 − 人名文字瓦の検討より』(続日本紀研究会編『続日本紀の時代』塙書房、1994)

薗田香融「知識と教化」(赤松俊秀教授退官記念事業会『赤松俊秀教授退官記念国史論集』文功社、1972)

薗田香融「畿内の調」(有坂隆道先生古希記念『日本文化史論集』1992)

田熊清彦「下野国府と文字瓦」(『古代文化』41-12、1989)

竹内理三「上代に於ける知識に就いて」(『竹内理三著作集一』角川書店、1998、初発表 1931)

坪之内徹「行基の宗教活動とその考古資料」(摂河泉古代寺院研究会編『行基の考古学』塙書房、2002) 東野治之「備後宮の前廃寺出土の文字瓦」(『日本古代木簡の研究』1983)

東野治之「土塔の文字瓦」(堺市教育委員会『史跡土塔 文字瓦聚成』2004)

中井真孝『日本古代の仏教と民衆』(評論社、1973)

中井真孝「共同体と仏教」(『日本古代仏教制度史の研究』法蔵館、1991、初発表 1974)

中西康裕「内匠寮考」(『ヒストリア』98、1983)

長山泰孝「行基の布教と豪族」(『律令負担体系の研究』塙書房、1976、初発表 1971)

仁藤敦史「内匠寮の成立とその性格」(『古代王権と官僚制』臨川書店、2000、初発表 1985)

仁藤敦史「公印鋳造官司の変遷について」(『国立歴史民俗博物館研究報告』79、1999)

林亨「山城国山崎院と人名瓦」(摂河泉古代寺院研究会編『行基の考古学』塙書房、2002)

速水侑編『行基』(吉川弘文館、2004)

春名宏昭「藤原仲麻呂政権下の品部・雑戸と官奴婢」(義江彰夫編『古代中世の政治と権力』吉川弘文館、2006)

平野邦雄『大化前代社会組織の研究』吉川弘文館、1969)

古尾谷知浩『律令国家と天皇家産機構』塙書房、2006

古尾谷知浩「古代の内蔵寮について」(初発表 1991)

古尾谷知浩「文献史料からみた土器の生産・流通」(義江彰夫編『古代中世の社会変動と宗教』吉川弘文館、2006)

古尾谷知浩「「律令的土器様式成立の背景」再考 − 土器における「中央集権」の内実」(周藤芳幸編『物質文化の歴史学再考』名古屋大学文学研究科、2006)

北條勝貴「行基と技術者集団」(井上薫編『行基事典』国書刊行会、1997)

森郁夫「奈良時代の文字瓦」(『日本史研究』136、1973)

森郁夫「奈良時代における東国の寺院造営」(『考古学雑誌』61-4、1976)

森郁夫「平城宮の文字瓦」(『奈良国立文化財研究所研究論集』6、1980)

森郁夫『瓦』法政大学出版局、2001

森郁夫「土塔の出土瓦と行基関連寺院の瓦」(堺市教委『史跡土塔 文字瓦聚成』2004)

森浩一「大野寺の土塔と人名瓦について」(『文化史学』13、1957)

山崎信二「平城宮・京の文字瓦からみた瓦生産」(奈良文化財研究所『文化財論叢』2002)

山路直充「文字瓦の生産」(『文字と古代日本 3 流通と文字』吉川弘文館、2005 年)

山中章「山崎院の建立」(『長岡京研究序説』塙書房、2001、初発表 1995)

山本幸男「天平宝字二年造東大寺司写経所の財政運用 − 知識経写経と写経所別当の銭運用を中心に −」(『南都仏教』56、1986)

吉田一彦『日本古代社会と仏教』(吉川弘文館、1995)

吉田一彦「『元興寺縁起』をめぐる諸問題」(『古代』110、2001)

吉田一彦「元興寺伽藍縁起并流記資財帳の研究」(『名古屋市立大学人文社会学部研究紀要』152003

吉田靖雄『行基と律令国家』(吉川弘文館、1987)

芳之内圭「平安時代の画所について」(『日本歴史』659、2003 )

芳之内圭「平安時代の作物所」(『続日本紀研究』348、2004)

芳之内圭「奈良時代の内匠寮」(『古代史の研究』12、2005)

芳之内圭「平安時代の宮中作物所の職掌」(『ヒストリア』199、2006)

若井敏明「大仏造立をめぐる覚書」(続日本紀研究会編『続日本紀の時代』塙書房、1994)

若井敏明「行基と知識結」(速水侑編『行基』(吉川弘文館、2004))

渡辺晃宏「官営工房の賃金支給システム」(『官営工房研究会報』4、1996)

課題

第 1 回

課題: 文字瓦の類型について整理し、それぞれについて造瓦のしくみや供給のあり方と関連づけて説明せよ。

スケジュール

講義内容
1 はじめに
2 1−1 古代手工業史研究のあゆみ(その1)
3 1−2 古代手工業史研究のあゆみ(その2)
4 2文献史料からみた瓦の生産
2-1 飛鳥寺の造営と技術の移転
5 2-2 宮殿・官衙向けの造瓦(その1)
6 2-2 宮殿・官衙向けの造瓦(その2)
7 2-3 寺院向けの造瓦
8 3文字瓦と知識
3-1 文字瓦の諸類型(その1)
9 3-1 文字瓦の諸類型(その2)
10 3-2 東国国分寺の文字瓦
3-2-1 律令税制か知識か
11 3-2-2 強制された知識
3-2-3 小結
12 3-3 大野寺土塔の文字瓦
3-3-1 大野寺土塔と出土文字瓦の概要
13 3-3-2 知識の参加者
14 3-3-3 愛知県陶磁資料館所蔵資料の分析
3-3-4 小結
15 おわりに

講義ノート

第 1 回

第 2,3,4 回

第 5,6,7 回

第 8,9 回

第 10,11 回

第 12 回

第 13 回

第 14 回

参考資料

成績評価の方法と基準

評価の方法:期末試験

評価の基準:古代律令国家による手工業生産掌握のあり方についての理解力を評価する。


投稿日

May 08, 2020