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開講部局:環境医学研究所

水村和枝 教授

最終講義 - 痛覚過敏の機構をめぐって歩いた15年−熱痛覚過敏から機械痛覚過敏へ−

授業時間 2010年度退職記念講義
日時 2011/3/18 17:00-18:00
場所 豊田講堂第一会議室

退職にあたって

私は医学部を卒業してすぐに、つまり医師としての臨床研修をせずに基礎医学系の大学院に入学しました。研究がだめだったら医者として働ける、という退路を断って研究を始めたことになります。それはサークルの先輩の、研究はすばらしい、という言葉の影響を強く受けたためです。39年もの長いあいだ研究生活を続けてこられたのは、その言葉の通り、研究はおもしろく、またいろいろと感動を与えてくれたからだと思います。

私の研究テーマは痛みの末梢機構、特に痛覚過敏の機構です。はじめは熱に対する痛覚過敏の研究を、主にイヌを使って実験しました。大学院入学当時医学部は大学紛争の後で疲弊しており、研究室には老朽化した機械しかありませんでした。それをかき集めて実験セットを作ったので、頻繁に故障しました。また、現在のラット・マウスなどの実験動物のように、業者に発注すれば週齢のわかった健康な動物がすぐ手に入る、というわけにはいきませんでした。というわけで、故障部位のチェックと修理、動物の世話にかなりの時間を費やしました。そんなわけで、今思うと研究の進みは遅かったと思いますが、そこで学んだことはいろいろあり、現在の研究にも役立っています。ます。熱痛覚過敏では、主に炎症部位にでて来るブラジキニンによる感作の機構を解析しました。

その後、機械痛覚過敏の研究に移り、実験動物もラット・マウスに変えました(時代がそれを要求しました)。機械痛覚過敏の研究は、主に、運動後に遅れて現れてくる遅発性筋痛をモデルとして研究してきました。筋肉の痛みの閾値を動物で測った実験が無かったので、そこから始めています。痛みの閾値を測る、薬を投与して影響を見る、痛み受容器の活動を記録する、筋肉における物質の発現を解析する、など、いろいろな方法で、実験しました。初めの2つの実験は、ラットやマウスでなければなかなかできない実験だったので、動物を変えてよかったと思います。そして、再びブラジキニンに出会いました。運動中に筋肉から放出されるブラジキニンが遅発性筋痛の引き金を引いていたのです。さらにその結果できる神経成長因子が、痛み受容器を感作して、痛覚過敏を起こしていることが明らかになりました。この研究をしている間に以前にも増して研究がおもしろくなりました。これはこの研究に参加してくれた大学院生、職員のおかげです。また、実験に使わせてもらった多くの動物のおかげで良い研究ができたので、心から感謝し、冥福を祈ります。

私が教授になったとき、医学研究科ではただ一人の女性教授でした。こういう時、女性の代表のような気になって気負って、頑張らなければならないと思う人もいると思いますし、そのように評価する人もいると思います。ですが、それは時にプレッシャーを生み、疲れさせ、本来の力を発揮できなくすることもあります。私は女性の代表としてではなく私個人である、という姿勢で、気負わず研究活動を行ってきましたし、評価もそのようにしてほしいと考えていました。ということはどういうことかというと、私が教授として十分な研究成果を収められなくても、それは私がダメなのであって、女性がダメなのではない、と考えてほしい、ということでした。これが得てしてそうでないのです。うまくいかない人が出ても男性ならその人がだめだったという評価で終わるものが、それが女性であると‘女性’だからダメだったなどと、女性すべてがだめかのようなall or none の評価をしてしまうことが往々にあるのです。これはぜひともやめていただきたいと思います。これからもまだしばらくは女性教授や准教授はマイノリティーだと思います。ポジティブアクションで採用される方もあると思います。新たにこれらのポジションを得られた方がたは、女性の代表のような気になって気負おうことなく、個人としてのびのびと研究活動をしてほしいと思います。それがよい結果を生むと思います。そして、ほかの女性研究者のキャリアーアップを手助けしてください。10年後には名古屋大学にもっとたくさんの女性教員が元気に研究していることを願ってやみません。

まだやり残したことが多いので、退職後も新たな職場で楽しみながら研究を続けて行こうと思います。そして、できることなら、多くの人が苦しんでいる筋肉の痛みに効く薬を見出したいと願っています。

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http://ocw.nagoya-u.jp/